じつは「臓器の移植」に大問題が隠れている…批判殺到だった「キメラマウス」に共通する「生命原則からの踏み外し」が、意外なほど話題にならない謎

生きものについて知ることは、自分自身を知ることであり、私たちを取り巻く生きものや環境の成り立ちやかかわりあいを知ることといえます。ところが、世の中では「生物学は面白くない」と思っている人が、意外に多いようです。身近なテーマなのに、難しい専門用語が散りばめられた解説は、生物学という世界を疎遠にしてしまっているのかもしれません。

感染症の拡大や原発事故による拡散した放射性物質の挙動、地球温暖化、遺伝子組み換えによる作物や臓器提供のための動物など、現代の主要なトピックの多くが生物学と密接に関係しており、まさに現代人にとって必須の教養といえます。

そこで、生物学の基本から最新の話題まで、網羅的に解説した入門書『大人のための生物学の教科書』から、興味深いテーマ、読みどころをご紹介していきたいと思います。今回は、「体細胞分裂」についての解説をお届けします。

※本記事は『大人のための生物学の教科書 最新の知識を本質的に理解する』を一部再編集の上、お送りいたします。

体細胞分裂によって保証されている個体の統一性

個体の統一性、それは体細胞分裂によって保証されている。

ただし多くの細胞は、体の各部分でそれぞれの役割分担にしたがって生きており、分裂することはない。この役割分担のことを分化という。日々、私たちの体でさかんに体細胞分裂をしているのはこの役割分担をしていない、未分化な細胞たちなのである。

まず、地球の生物における個体とは何か「個体」とは何か、ということから考えてみよう。

たとえば私の体は、たった1個の受精卵が細胞分裂を繰り返すことにより形成された、単一のゲノム(遺伝情報)で統一された細胞の集団である。多細胞動物の体が何兆の細胞でできていようが、いやたとえ何京の細胞でできていようが、個体の中のゲノムは共通である。

もちろんこれは地球という星の上での話であり、地球外生命がいたとすればこの原則があてはまるかどうかはまったくわからない。いや地球外生命にはそもそも個体などないかもしれない。

バイオテクノロジーの研究史の中で最も倫理的な批判を受けたものの一つは、おそらくキメラマウスだろう。それは何故か。ギリシャ神話の奇獣で、頭はライオン、胴はヤギ、尾はヘビというキメラの名をもらったこのマウスは、発生初期に胚を取りだし、他の個体の胚の細胞を混ぜて再び子宮に戻すことによって誕生した。

ギリシャ神話に登場する「キメラ(キマイラ)」を描いた18世紀の絵画 photo by gettyimages

したがってこのマウスにはゲノムが2種類あり、その2種の細胞が体内にパッチ状に混在している。1匹のマウスの体に2匹が乗っているのである。これは地球の生命の「個体」の原則を大きく踏み外す存在であった。

しかしながら、臓器移植をめぐるさまざまな議論の中で、この問題は意外なほど話題にならない。

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