がん細胞は、なぜ「増えつづけ」、なぜ「転移する」のか…ひたすら増殖するという「未分化細胞の宿命」

生きものについて知ることは、自分自身を知ることであり、私たちを取り巻く生きものや環境の成り立ちやかかわりあいを知ることといえます。ところが、世の中では「生物学は面白くない」と思っている人が、意外に多いようです。身近なテーマなのに、難しい専門用語が散りばめられた解説は、生物学という世界を疎遠にしてしまっているのかもしれません。

感染症の拡大や原発事故による拡散した放射性物質の挙動、地球温暖化、遺伝子組み換えによる作物や臓器提供のための動物など、現代の主要なトピックの多くが生物学と密接に関係しており、まさに現代人にとって必須の教養といえます。

そこで、生物学の基本から最新の話題まで、網羅的に解説した入門書『大人のための生物学の教科書』から、興味深いテーマ、読みどころをご紹介していきたいと思います。今回は、細胞周期と、がん細胞の増殖について解説します。

※本記事は『大人のための生物学の教科書 最新の知識を本質的に理解する』を一部再編集の上、お送りいたします。

分化と細胞周期

ところで体細胞分裂の前期・中期・後期・終期以外の時期は、昔は静止期といわれていたが、ここで一休みしているわけではないので、今は間期と呼ばれるようになった。この間期はさらにG1期・S期・G2期の3つの時期に分けられ、前期〜終期
をまとめてM期とし、以上4つを細胞周期と呼ぶ(図「細胞周期」)。

【図】細胞周期細胞周期

最も重要なのは、DNAを合成(Synthesis)して2倍にするS期と、そのDNAを染色体というパッケージを使って正確に2つに分裂(Mitosis)させるM期であり、その間(Gap)をG1期・G2期とした。ただこのG1期・G2期も休んでいるわけではな
く、G1期はDNA合成に先立ってその部品(ヌクレオチド)を大量に用意しており、G2期は分裂に先立って紡錘糸の材料等を準備している。

図を見ると、途中からこの周期を外れるG0というものがある。じつは多細胞生物の大部分の細胞はこのG0という状態にある。細胞周期をぐるぐると回っているのは植物なら成長点や形成層の細胞、動物なら骨髄・皮膚などさかんに分裂している組
織にある幹細胞という細胞である。

ではG0という時期にある細胞はというと、彼らは分裂を終えた後それぞれの役割分担をあたえられ、その仕事に就いている。この役割分担を「分化」Differentiationという。この英語を見るとわかるが、仕事をしている細胞とはすなわち差異化された細胞のことだ。

肝細胞なら肝細胞としての仕事をはじめ、もう増えない。体細胞分裂では先に述べたように、受精卵から連綿と引き継がれてきたゲノムの全情報が各細胞に渡されている。肝細胞とは、この全情報のうち肝臓の仕事に関する遺伝子以外の全遺伝子を封印し、肝臓の仕事だけに専念する細胞であり、これが分化だ。

そして、一度分化した細胞は原則もとに戻ることはない。図「細胞周期」のG0への矢印が一方通行であることがそれを物語っている。

分化細胞も、万が一のときには再生が可能になる

ただし分化した細胞といっても、他の遺伝子を捨ててしまうわけではなく封印しているだけなので、万が一のときにはこの封印を解くことで再生が可能になる。細胞がその生物の全情報を手放すことは原則としてない(免疫細胞には一部例外がある)。

だから組織の損傷などに際して、一部の細胞がG0から細胞周期に戻る例は数多く知られている。台風などで折れてしまった植物が、ほぼ元通りに復活するところをご覧になったことがあるだろう。そして、このことが動物における体細胞クローンを可能にしている。

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