じつは「臓器の移植」に大問題が隠れている…批判殺到だった「キメラマウス」に共通する「生命原則からの踏み外し」が、意外なほど話題にならない謎
染色体は遺伝情報を運搬するパッケージ
私たちが引っ越しをするときに段ボール箱は欠かせない。どんな近くに引っ越す場合でも、手に持ったり紙袋に入れたりして運んだのでは、かならず何かを失くしてしまう。
陶器などは新聞紙に一つ一つくるんで段ボールの中に動かないように詰めていく。引っ越しでいちばん時間がかかるのはここである。少なくとも1週間ぐらい箱詰めの作業は続き、実際に引っ越し業者さんに運んでもらうのは数時間程度で、後は引っ越し後に梱包を解くのにまた1週間以上かかるのである。
体細胞分裂の経過はこれとよく似ている。前期とはDNAを染色体というパッケージに詰め込む作業であり、まちがいなくすべてを詰めるのにかなり時間がかかる。パッケージが並べられるのが中期、運ばれていくのが後期である。ここは結構短時間ですむ。そしてDNAの梱包を解いて元の生活に戻るまでが終期、ここはまた結構時間がかかる。
引っ越しの途中でお茶を飲みたいと思っても、Tシャツを着替えたいと思ってもそれはかなわない。段ボールの中にあるからである。同じように中期や後期の状態でDNAを読み取る(すなわち生命活動をする)ことはできない。ここは細胞が息を止めて我慢している時間である。だからなるべく短時間で済ませたい。
実際の体細胞分裂でも中期と後期は時間的に極めて短いのである。体細胞分裂の経過をイメージするときは、かたちの変化だけではなく時間の流れをふくめてイメージして欲しい。
引っ越しは、箱詰めや梱包解きに時間がかかる。細胞分裂の経過も、時間の流れをふくめてイメージしたい photo by gettyimages
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次回は、体細胞分裂の周期と、体細胞分裂と密接な関係のあるがんの発生について、お送りします。