じつは「臓器の移植」に大問題が隠れている…批判殺到だった「キメラマウス」に共通する「生命原則からの踏み外し」が、意外なほど話題にならない謎
臓器移植を受けたヒトはまちがいなくキメラとなる
臓器移植を受けたヒトはまちがいなくキメラとなる。生体肝移植なら1000億ぐらいの別のゲノムをもつ細胞が体の中に入ってくることになる。激しい拒絶反応が起こるのは地球の生命として当然だが、強力な免疫抑制剤を使ってこれを抑えこむのである。臓器移植はもちろんいのちを守るための医療技術だが、拒絶反応もまた地球の生物としての「個体」の存在をかけた反応である。
今後、遺伝子治療やゲノム編集によるさまざまな新技術が話題となるだろうが、この「個体(単一のゲノムで統一された存在)」との関係は常に検討されることとなるだろう。
マウスの胚性幹細胞の顕微鏡写真 photo by gettyimages
個体の統一を保証する体細胞分裂
同一のゲノムで統一された「個体」はどのようにしてつくられるのだろう? 有性生殖によってつくられた新世代は、かならず1個の細胞(一般に受精卵)からスタートする。無性的に増える場合でも、シダ植物のように減数分裂で新たなゲノムがつくられる場合はやはり1個の胞子からである。
細胞が何兆個もある多細胞生物であってもいちいち1個の細胞から出直すという面倒な手順を踏むのは、この個体の統一をまちがいなく担保するためである。
そしてこの1個のゲノムを完璧にコピーし続けて、個体をつくりだしていくしくみが体細胞分裂ということになる。体細胞分裂の経過(図「体細胞分裂」)は学校で繰り返し習うので、皆さんもよくご存じのことだろう。
体細胞分裂
体細胞分裂というしくみには、個体の統一を保証するためのさまざまなしかけが込められている。