なるほど! そうだったのか、数学。
数学を納得して理解するには、小学校から高校まで学ぶ算数・数学のうち、とくに押さえておくべき「重要キーワード」を一つひとつ理解して、体系的・構造的に学ぶことが大切です。
いまや、数学は、受験対策などの交換価値や、便利な道具として使用価値の有無ばかりが強調されるようになってしまいましたが、本来は、生活経験や体験によって得られた知識をベースにした素晴らしいな思想体系です。そして、その思想は、小学校の算数という初歩の段階から、しっかり流れ続けているのです。
学生のころに新鮮な気持ちで学んだ算数や数学を、いまふたたび深めることこそ、数学の本質に迫る「近道」といえるでしょう。
好評の『なっとくする数学記号』(ブルーバックス)の著者にして、数学教育を知り尽くした専門家による「学びなおし」の決定版『学びなおし! 数学 代数・解析編』。そこで取り上げた数学を理解する29のキーワードから、さらに厳選したトピックをご紹介していきます。
*本記事は、『学びなおし! 数学 代数・解析編 なっとくする数学キーワード29』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
足し算と掛け算が自由にできる数「自然数」
今回は、自然数の性質について考えてみます。
1, 2, 3, …という数が自然数です。0を含めて自然数ということもありますが、ここでは0は含めません。記号的に自然数の集合をNと書きます。
自然数の特徴は、足し算と掛け算が自由にできるということです。引き算では小さい数から大きい数を引くことができません。また、割り算にも制約があります。
すべての自然数は、1+1+1+…+1という具合に、1の足し算で得られます。それゆえ、1のことを単位と呼んでいます。
もう一つの演算である掛け算を考えたとき、自然数はどう書けるのかというのがここでの話題です。
素数の定義
そこで大切な概念の一つが素数です。
素数とは、1と自分自身以外に約数を持たない数のことです。1は素数とはいいません。
自然数を掛け算から考えたときには次のように書けるということです。
「1より大きな自然数は素数の積で書けて、それは順序を無視してただ一通りである」
別の言い方をすれば、「素数の積に分解できて、その仕方はただ一通りである」ということです。これは「算術の基本定理」と呼ばれています。この基本定理は、紀元前300年頃にユークリッドという人が、その時代までに知られていた数学の公式や定理を論理的で演繹的な手法により編纂(へんさん)した『原論』にあります。
どのように分解しても、出てくる素数は一通りだけ
自然数を素数の積に分解することを素因数分解といいます。
たとえば、
360=2×2×2×3×3×5
のように表し、これが360の素因数分解です。
ここで重要なのは分解の一意性(ただ一通りであること)です。これは素因数分解の一意性といいます。
360=2×2×2×3×3×5
360=10×36=5×2×4×9=5×2×2×2×3×3
=2×2×2×3×3×5
360=180×2=90×2×2=3×30×2×2
=3×3×10×2×2=3×3×2×5×2×2
=2×2×2×3×3×5
どのように分解していっても、素数2が3個、素数3が2個、素数5が1個ということは変わらないわけです。これがただ一通り(一意)であるという意味です。
一意性を厳密に証明したのは、後のドイツの数学者カール・フリードリヒ・ガウス(1777〜1855)のようです。
掛け算という演算に関しては、素数は自然数を構成する素(もと)になる数であるということです。これがすべての自然数で成立する基本定理というわけです。
物理や化学では基本粒子や元素などを調べ、その個数や組み合わせが重要な意味を持ちます。クオークという基本粒子の数を予言した益川敏英さん(故人)と小林誠さんがノーベル物理学賞を受賞されたのは記憶に新しいところです。
そこで、素数に関する古代の話を紹介しておきましょう。『素数物語 アイディアの饗宴』(中村滋著、岩波書店、2019)によると、古代ギリシャの人は次のように小石を並べる問題を考えたようです。