2024.07.04
# 免疫学

アレルギーは進化によって生まれた…現代人を悩ませる免疫暴走による病は、じつは「感染爆発の繰り返し」が出現させた、という「衝撃の指摘」

「エピデミック」(感染爆発)と、そして、「自己免疫疾患」や「アレルギー」。両者の驚くべき関係を明らかにして話題になっている1冊の本がある。自己免疫疾患の専門医が書いた『遺伝子が語る免疫学夜話』(晶文社)だ。本書の一部を特別公開する。

【書影】遺伝子が語る免疫学夜話
いま、科学界隈で話題の1冊『遺伝子が語る免疫学夜話

免疫は両刃の剣

「免疫」とは、”疫を免れる”と書く字の通り、「一度罹った感染症には二度と罹らないように生体が抵抗性を獲得する仕組み」になります。

皆さんも、はしかや風疹に一度罹れば二度は罹らない、ということは聞いたことがありますよね。ワクチンはその仕組みを応用したもので、弱毒化した感染微生物をヒトに先に感染させておくことで、強力な毒性をもつ本当の微生物に感染したときには、体が素早く抵抗性を示すことができる、というわけです。

ところが、この免疫のシステムが、感染源の微生物でなく、自分の組織を攻撃することがあるのです。それを「自己免疫」といい、それにより起きる病気を「自己免疫疾患」と呼びます。その中で全身性に自己免疫が起きるのがいわゆる膠原病といわれる病気で、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどが該当します。

一方、ある特定の臓器に対して攻撃が向くのは、臓器特異的自己免疫疾患といわれ、例えば、1型糖尿病やバセドウ病、クローン病、などの病気がそれにあたります。

そして、免疫システムによる攻撃が、感染源の微生物でなく、微量の環境物質に向かって起きることを「アレルギー」と呼び、花粉症やアトピー性皮膚炎などがそれに該当します。いずれも免疫系の暴走によって起きる病です。

【図】免疫は両刃の剣図1 免疫は両刃の剣

「自己免疫」が起きると何がやっかいかといいますと、感染微生物に対して免疫が攻撃するときは、その微生物がいなくなれば戦いは終わります。ところが、「自己」を相手に免疫が戦いを始めた場合は、その戦いは「自己」の臓器を破壊しつくすまで終わらない、という点です。そしてその結果、生体にとって大切な臓器の機能が失われてしまうのです。

例えば1型糖尿病では、膵臓が自己免疫によって攻撃、破壊されるため、膵臓が分泌しているインスリンという物質を全く作れなくなって、糖尿病になってしまいます。そのため、この病気になった人は一生、インスリンを打ち続けなければなりません。あるいは関節リウマチでは、関節が免疫の主たる攻撃対象になって壊されますので、患者さんの身体機能が大きく障害されます。

このように、自己免疫が起きた場合は生体にとって破滅的な結末をもたらすため、当初、免疫学者たちはそのようなことが起きるはずがない、と考えていました。初期の高名な免疫学者であるポール・エールリッヒはそのことを、「Horror autotoxicus(自己中毒忌避説)」と述べています。免疫系が自己を攻撃するような破滅的なことが、「進化」の過程で選択されるはずがない、生体はそれを防ぐための仕組みを備えているはずだ、というわけです。

ところが、実際には自己免疫疾患やアレルギーといった病が存在します。

それはなぜなのでしょうか?

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