根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。発売たちまち6刷が決まった話題書『職場を腐らせる人たち』では、ベストセラー著者が豊富な臨床例から明かす。
根底に喪失不安が潜んでいる
自己保身願望の根底に喪失不安が潜んでいると、自己正当化に拍車がかかるので、さらに厄介だ。ほとんどの場合、「失うのではないか」「失ったらどうしよう」という不安の対象になるのは、本人が管理職であろうがパートタイマーであろうが、現在の地位や収入である。それが本人にとって大切であるほど、喪失不安が強まり、「自分にとって大切なものを失ったら困るから、それを守るためには何をやってもいい」という自己正当化の心理が働く。これが怖い。
その怖さは、過去の歴史を振り返れば一目瞭然だ。いかに多くの戦争が、領土や住民、資源や財産など、かけがえのない大切なものを守るためには、やむを得ないという口実で引き起こされてきたことか。開戦に際して、大衆の喪失不安をかき立てるプロパガンダが盛んに行われた例は枚挙にいとまがない。喪失不安が強くなるほど、たとえ攻撃であっても正当化しやすいので、戦争を始めたい為政者からすれば思う壺だろう。
しかも、否が応でも喪失不安をかき立てられるのが現在の日本社会だ。特別な技術も資格もコネもない40代以上の人が一度職を失うと、同等の収入と待遇が保証される職を見つけるのは難しい。だからこそ、「わが身を守るためには仕方がない」と自己正当化して、他人を蹴落とすために陰で足を引っ張ることも、自分自身の落ち度が問われるのを避けるために責任を転嫁することも平気でやるのではないか。
たしかに、コロナ禍が喪失不安を激化させたことは否定しがたい。だが、新型コロナウイルスの流行以前から、「斜陽産業」と呼ばれていた百貨店や新聞社などでは人員削減の動きがあった。コロナ禍を経て、かつては「花形産業」として羨望のまなざしが向けられていたテレビ局でも、早期退職を募集するようになった。これでは、喪失不安にさいなまれる人が多いのも、そのせいで心身に不調をきたす人が跡を絶たないのも無理もない。
おまけに、日本の企業には、事実上、社内で仕事を見つけられない、いわゆる「社内失業者」が400万人もいるという。これは企業に雇用されている正社員の1割に相当する数らしい(『貧乏国ニッポン―ますます転落する国でどう生きるか』)。