「タイタニック号」見学ツアーの「潜水艇」圧壊の原因は、コスト削減のための「耐圧殻」のあり得ない「形」と「素材」にあった…!
2023年6月18日頃に起こった、米国の観光会社オーシャンゲート社が運航する潜水艇タイタン号の海難事故。乗員・乗客の生存は絶望的という驚愕のニュースが世界を駆け巡りました。事故から時間が経つにつれ、その船体の脆弱性を指摘する声が、多くの専門家や関係者、識者から上がっています。深海潜航艇で潜航の経験があり、映画「タイタニック」を制作した映画監督のジェームズ・キャメロンもその一人です。
では、彼らは、「タイタン」のどこに「問題あり」と見ていたのでしょうか? そして、そうした欠陥ともいえる構造になった理由は? 前回の記事では、最先端の「無人潜水機」のハイテクぶりを見てみましたが、続く今回は、深海潜水艇のしくみを見ながら、検証してみたいと思います。
深海艇にかかわった人ならわかる「原因は船体」
タイタンの事故の解明はこれからだが、少しでも深海艇にかかわった人なら、事故原因は「船体の構造」だと思っただろう。
深海では凄まじい水圧を受ける。宇宙船は、船内を地球と同じ1気圧に保っていた場合、外は0気圧の真空なので気圧差は1気圧だ。深海艇も船内は1気圧を維持しているが、外からはとてつもない水圧が加わる。宇宙船と比べて深海艇の設計、建造がきわめて難しいのはこの水圧にある。
タイタニック号の沈没現場は水深3800mなので、1cm平方に約380kgf(力の単位)の水圧がかかる。タイタンが「破綻」した場所が水深3300mとすると、船体は100円玉の上に体重65kgの人が7人乗っているのと同じ水圧を受けていたことになる。
タイタンはその水圧に耐えられず瞬時に「圧壊」した。
このすさまじい水圧から搭乗者を守るため、深海艇のほとんどは人が乗る部分を高張力鋼やチタン合金で作った球形(まったく歪みのない真球)にしている。これを「耐圧殻」(たいあつこく)と呼ぶ(「たいあつかく」と言うこともあるが)。
「真球型」「チタン製」が耐圧殻の標準仕様
その耐圧殻とはどういうものか。
私は、「しんかい6500」の設計を手がけた「深海船設計の神様」、高川真一さんに、その難しさを聞いている(高川さんは当時JAMSTEC、後に東京大学生産技術研究所特任教授を歴任)。
深海の大水圧に耐えるには球は徹底した「真球」でなければならないんです。陸上で使われているガスタンクなどの圧力容器の多くは「内圧容器」、内側から外側に圧力がかかる容器です。
「内圧容器」は、もし容器に小さな凹凸があっても内側からの圧力で理想の形に近づきます。放っておいても真球になってくれます。
ところが深海のように外から大変な「圧力」を受ける「外圧容器」は、ちょっとでもいびつな部分があると、そこから一気に凹んで壊れてしまうんです。
「しんかい6500」の耐圧殻はチタン合金製で、厚さが73.5mm、内径2m、真球度は1.004だ。これは耐圧殻の内径がどこを測っても2m±0.5mm以内であることを意味する。真球であれば、あらゆる方向から受ける力が均等に分散するので「圧壊」しないのだ。