「ロケットには魔物が棲んでいる」…日本の国産・新基幹ロケット「H3」――打ち上げに至るまでの「辛酸の日々」
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発に取り組んできた国産第3世代の強大H3ロケット初号機は、当初、2020年度中に打ち上げる予定だったが、「やっと、やっと」3年遅れの2022年度末ぎりぎりの、2月15日以降に種子島宇宙センターでの初打ち上げにこぎつけた。2年遅れとなった辛酸の日々を振り返る。
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H3ロケット開発の経緯をご紹介した前編〈ついに初打ち上げ、日本の国産基幹ロケット「H3」――その「凄すぎる全容」完全レポート〉は、下の【関連記事】からどうぞ! 報道公開時の貴重な映像も公開中です。
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雪積もる秋田の山奥に響いた轟音と大白煙
ちょうど3年前の2020年2月13日、私は、秋田県のJR大館駅からクルマで約1時間40分、雪の山道を辿り青森県境ぎりぎりの山間部、世界遺産の白神山地に近い大館市岩瀬字澄川にある三菱重工業の田代ロケット燃料燃焼試験場を訪ねた。
ロケットエンジンの燃焼試験ではとてつもない轟音と白煙があがるため、1976年、人家のある集落から遠く離れたここに三菱重工が開設、東京ドーム25個分の広さだ。の運営だ。
LE-9エンジン2基の燃焼試験は前年に報道公開されていたが、この日は初めて3基を束ねた燃焼試験が行われる。LE-9エンジン3基は「ジャンボのエンジン15基分」のパワーなので、私はそれがどんなものか体感したいと半ば野次馬根性で駆けつけたのである。
40秒間の燃焼では凄まじい白煙が雪空に吹き上がった。ロケットの燃料である液体水素と液体酸素の大爆発によって生じた水蒸気だが、期待した轟音は種子島宇宙センターで何度も見てきたロケットの打ち上げほどではなかった。ロケット打ち上げ時の轟音による衝撃は搭載衛星に損傷を起こすこともあるため、LE-9エンジンではその音の対策もしているためと耳にしたが、風向きの影響で轟音が十分届かなかったのかもしれない。
燃焼試験中のデータモニターでは問題がなく、JAXAのH3ロケット、プロジェクトマネージャ(以下「プロマネ」)の岡田匡史(まさし)さん、三菱重工、H3プロジェクトエンジニアの新津真行さんは喜びの表情で、「H3ロケットは2020年度末までに初打ち上げを行う」という手応えを感じさせた燃焼試験だった。