ついに初打ち上げ、日本の国産基幹ロケット「H3」――その「凄すぎる全容」完全レポート
打ち上げ中止の真相
2003年3月7日、午前●時●分●秒、H3ロケット1号試験機が種子島宇宙センターから、やっとやっと打ち上げられ、●時●分●秒、「初荷」である先進光学衛星「ALOS-3」(だいち3号)を静止遷移軌道に投入、打ち上げは成功した。
H3初号機は、2023年2月17日に初打ち上げを迎えたが、メインエンジンが点火し白煙(液体酸素と液体水素の燃焼による水蒸気)が上がったもののエンジンは自動停止。2基の補助ロケットブースター(SRB-3)が点火せず、発射台に居座ったままだった。H3は、「僕飛びたくないよ」とダダをこねているように見えた。
発射できなかった原因について、JAXAのプロジェクトマネージャ、岡田匡史(ただし)さんは、「ロケット本体が電源系の異常を検知したため半導体スイッチがOFFとなり、SRB-3に着火信号が送られなかった。自動安全システムにより発射が<中止>されたので、打ち上げ<失敗>ではない」と説明した。
これに対して共同通信記者の「中止ではなく失敗だろう」という執拗なまでの問い詰めが、大きな波紋をもたらした。
日本でのロケット発射で「SRB点火せず打ち上げ延期」は、H-IIロケット2号機(1994年8月28日)で経験している。液体酸素と液体水素を燃料とするメインエンジンは、点火後でも燃料の供給を止めれば運転を中止できる。だが、SRB=固体ロケットブースターは合成ゴムを主成分とするコンポジット推進薬を用いている。いわば花火と同じで一度点火すると燃焼を止めることができない。「中止」はそのSRBのいわば宿命をふまえての安全措置だったと思える。
打ち上げ寸前での打ち上げ「中止」は珍しいことではない。
1998年12月4日、私はフロリダ半島にあるケネディ・スペース・センターでのスペースシャトル・エンデバー(STS-88)による国際宇宙ステーション建設資材の第2回打ち上げを取材したが、打ち上げの14秒前にカウンドダウンが止まり1日延期となった。原因はシャトル内の機器パネルに異常が表示されたためだった。この異常は単なる「表示エラー」にすぎず問題なしと判明したが、乗飛行士のリセットが数秒遅れたために打ち上げ延期となってしまった。ロケットとはそういうものなのだ。
そういうことを知ってか知らずか、打ち上げ中止直後でまだ原因もわからず厳しい精神状態にあるプロジェクトマネージャに対して、「中止」か「失敗」かという詰問は、H3ロケット開発に9年間取り組んできた何百人におよぶエンジニア全員に対する礼を欠いた発言として日本宇宙開発史に語り継がれるだろう。
さらに、それに追い打ちをかけるかのように、2月22日、文部科学省はH3ロケットの打ち上げ中止に関するオンラインでの「外部有識者会議」を開催した。オンライン画面には参加しているJAXAの方々の名がずらりと並び原因についての説明が延々と続いたが、この会議で明らかにされたことは中止の「現象」説明のみで、「原因」は「現在、全力で解明中」以上のことは出てこなかった。
私は、打ち上げ中止当日の記者会見といい外部有識者会議といい、長時間の説明を求めるべきではなかったと思っている。H3ロケットチームにとっては原因解明た1分1 秒でも多くの時間が必要で、最優先すべきは原因解明なのだから。
原因が発表されたのは3月3日の午後3時過ぎだった。 オンラインの会見で語る岡田プロマネの表情は、憑きものが落ちたような明るさを感じた。
打ち上げ中止の原因は、ロケット内部ではなく地上設備にあった。
ロケットは地上設備と電源ケーブルが接続されており、打ち上げの直前に接続が断たれる。地上からの電源供給は、電源をOFFにした直後、ロケットに接続した「アンビリカル(へその緒)」(いわばコネクター)が外されるのだ。
たとえばコードレス掃除機では、AC電源に接続して使うこともできるが、それを抜いた後は内部バッテリー駆動となる。電源を切る時にACプラグを抜くと火花が出ることはよく経験するが、その際、瞬時だが電位変動が起こることがある。