ウール
ウール (英: wool) は、哺乳類の、厚くて、柔らかくて、波状や巻き毛のアンダーコート[注釈 1]であり[1]、典型的には、羊のアンダーコートである[1]。ケラチン繊維のマトリックスから構成される[1]。また、その毛で作った製品[1](ウールの毛糸、毛織物など)。
概説
[編集]ウールの中でも、特に生産量が多く代表的なのは羊毛(羊の毛を原料としたウール)であるが、その他にも、ヤギの毛を原料とするモヘヤやカシミヤ、ウサギの毛を原料とするアンゴラ、アルパカの毛を原料とするウール("アルパカ")などもある(それらの多くは、羊毛よりも高級品として扱われている)。→#動物の種類
羊毛がウールの代表であるので、本記事では羊毛を中心に説明するが、その他、ヤギ・ウサギ・アルパカなど他の哺乳類のウールについても本記事で説明する。
広義には、上述の毛をつむいだ毛糸や、毛糸を織った毛織物などもウールと呼ばれる[2]。
ウールは動物繊維のなかの代表的存在であり、動物繊維のなかで最も多く使用されている[2]。ウールはスーツやコートの服地、セーター・ストール・マフラー・帽子など防寒具や服飾品、防寒具・寝具・緩衝材として使われる毛布、またカーペットやカーテンなどのインテリア品、多用途の羊毛フェルトなど、多様な品の素材として使われている。
歴史
[編集]羊はかなり昔から飼育されていた。
アナトリア南東部のタウルス山脈で、今から10,500年前の家畜化された羊の証拠が見つかっており、現在のところ、これが羊が最初に家畜化された場所と推定されている[3]。
人類がまだ羊の毛を刈ってそれを使うという方法を思いついていなかった段階では、羊の毛皮を衣服として身にまとっていた。[4]
歴史学者は、古代メソポタミアの人々が羊の毛を刈ってそれから服を作ることができると発見した、と考えている[4]。これは偉大な発見であった。というのは、この方法なら羊を殺さずに服を手にいれることができ、おまけに同一の羊が毎年新たに羊毛をもたらしてくれる可能性があるのだから[4]。メソポタミアの人々は、最初はウールを紡いだり織ったりしなかった。もしかするとそういうことを考えもしなかったのかも知れない[4]。彼らは最初、ウールをフェルトの形で使った[4]。その後、紡いで織って毛織物として使うようになり、それがメソポタミアにとって重要な産品となり、東はインド亜大陸、西は地中海世界、南はアフリカ大陸との貿易が行われた。[4]
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ディルムンに向けてウールと銀を出荷した記録。紀元前2350年頃。
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使用人に対してウールを支給した記録。紀元前626年–605年頃。
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ウールや衣類の受領についての経営記録。紀元前600年頃。
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ウールの染色に関する手引書。紀元前600年-紀元前500年頃。
古代ローマではウールは一番大切な繊維だった。家族のためにウールを紡いで糸をつくり、それを織ってウールの衣類を作ることは古代ローマの女性全員の義務であり、それを行うことは、美徳と女性らしさの象徴であった[5]。ローマの女性たちの墓石にはしばしば、誇らしげに「私は家を守った」や「私はウールの仕事をした」などの文言が刻まれており、さらに杖、紡錘、ウールのかご、ウールを紡いだ毛糸の玉のレリーフが墓石を飾っていることもよくある[5]。ローマ人は、女性の美徳と、ウールを紡ぎ織ることを、かなり強く関連づけていたので、初代ローマ皇帝のアウグストゥスは彼の妻や娘に対して彼のトーガを紡いで織ることを求め、それをローマ帝国の女性たちへの良き手本としようとした[5]。[注釈 2]
新約聖書の「ルカによる福音書」の2:8-9には、ベツレヘムの 名もない羊飼いたちが登場し、「この土地に、羊飼いたちが、野宿で夜番をしながら羊の群れを見守っていた。すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が回りを照らしたので、彼らはひどく恐れた。」とある。
- ウールという言葉の歴史
現代英語ではwoolと呼び、現代フランス語ではlaine(レーヌ)と呼ぶが、それらの語源、言葉の歴史については、記事末尾の#語源の節を参照。
ウールの成分、繊維の構造
[編集]メリノウールの繊維の表面は魚の鱗(うろこ)のような形状の鱗片で覆われている。
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メリノウールの繊維の電子顕微鏡写真
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メリノウールの繊維の構造
生産
[編集]ウールの生産量が多い国々は、2023年の統計によると、1位 中国 356,216トン、2位 オーストラリア 348,608トン、3位 ニュージーランド 125,772トン、4位 トルコ 85,916 トン、5位 イギリス 70,448トン、6位 モロッコ 62,083トンなどとなっている。[6]
羊からの毛の刈り取りは重労働であるため、オーストラリアなどでは敬遠されがちである。羊毛刈り用ロボットの開発も進められている[7]。(ニュージーランドでは以前は国民一人あたり20頭の羊がいたが、近年は減少傾向である。)
なお日本ではほとんど生産されておらず、日本で消費されるウールはほぼ100%が海外からの輸入である[8]。
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メリノ羊のシェアリング(毛の刈り取り)。オーストラリア。
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羊毛の刈り取り(オランダ)
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ウールの選別作業(1900年ころ)
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袋詰め
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袋詰めしたウールの出荷、運送(西オーストラリア、1977年)
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ウールの運送(モンゴル)
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メリノウールのサンプル。業者が購入する際に選定するためのもの。
動物の種類
[編集]ウールの生産に使われる動物、およびそのウールの名称、特徴などを説明する。
- 羊
- なかでもメリノ種は、羊毛の中で最も上質な品質を多く産出しており、繊維が細く、一般的な羊毛よりも柔らかいのが特徴で、チクチクしにくいので着心地が良い[9]。メリノ種から採れる良質なウールはメリノウールという。メリノ種は、ローマ帝国の人物ルチウス・コルメラが1世紀前半にイベリア半島で品種改良して生み出した種が原型になっており、ローマ帝国消滅後のイベリア、つまりスペインで飼われていた歴史が長く、17世紀にはスペイン王室がメリノ種の輸出禁止策をとりスペインが独占し、高品質のメリノウールで織った毛織物がスペインの重要な産物となった。だが18世紀後半から19世紀前半にかけてその禁輸出策が崩れてメリノ種はスペインから流出し、いくつもの国に広まっていった。現在、メリノウールの約80%はオーストラリアで生産されている。メリノ種をさらに細かく分類し、オーストラリアンメリノ、ニュージーランドメリノ、フレンチメリノ、USメリノなどに分類できる。
- オーストラリアン・メリノ(en:Australian Merino)
- 1796年に南アフリカからオーストラリアに輸入され、1830年ころには200万頭に増えていた。交配と選別を重ねた結果、オーストラリアの気候に適応し、羊毛の中でも特に繊細で柔らかな毛となった。あらゆる羊毛の中で最も白く、最も細く、捲縮が多い。ただし、オーストラリア産のウール(だけ)は今でも無麻酔でミュールシングを行い苦痛を与えた羊で生産しており、動物福祉の観点から批判されており、不買運動も起きている。
- ニュージーランド・メリノ
- ニュージーランド・メリノは、比較的雨が少なく牧草に恵まれている南島の丘陵地帯で広く飼われており、軽量で、長く細い脚を持つものが多く、他の羊に比べて成長が遅く、出産率が低い。そのウールは、繊維の太さが約17.5μと細く(しかも最近はさらに細い「スーパーエキストラファインメリノ」を産出する牧場もあり)、色も白く、ちぢれ(クリンプ)が大きく、バルキー性(ふんわりとして、かさ高な感じ)に富んでいる[9]。[注釈 4]
- 英語の通称でフレンチ・メリノ(英: French Merino)、より正式にはランブイエ・シープ(英: Rambouillet sheep)、現地のフランス語ではメリノ・ドゥ・ランブイエ(仏: Mérinos de Rambouillet)
- 1786年にフランスのルイ16世が従兄弟でスペイン国王のカルロス3世からスパニッシュメリノを300頭以上購入したことに始まる。それをパリの南西50kmにある彼の所領のシャトー・ドゥ・ランブイエ(Château de Rambouillet)で飼育したのでMérinos de Rambouilletと呼ばれるようになった。そのウールは、弾力性や耐久性があり高密度で上質で、高級衣料品の生地によく使われる[10]。
- USメリノ
- 在ポルトガル米国領事で富裕な商人だったWilliam Jarvisが、アメリカ合衆国北東部のバーモント州に移住し1812年にスペイン政府との縁を使いスパニッシュメリノ種を輸入し、同州でウール生産がブームとなり同州のメリノ種の数は1837年には100万頭に達したが、米国の関税法が変更になった影響で価格が1835年のポンド当たり57セントから1840年代末のポンド当たり25セントにまで下落して農家は収益低下に苦しみ、さらに、米国西部の諸州との飼育コスト削減競争にも苦戦した結果バーモント州のメリノ種飼育は壊滅し[11]、バーモント州の飼育農家は米国の他州へと移転していった。
- 他の獣
- アンゴラヤギ[9]
- これのウールはモヘヤと呼ばれる。原産地はトルコだが[9]、現在アルゼンチンやオーストラリアで生産されている[9]。そのウールは、滑らかで、白く美しく、上質な光沢感がある。高級素材のひとつとされ、夏の高級紳士服(スーツ)の生地の定番であり、(女性の)セーターにもよく使われる[9]。
- カシミヤヤギ(en:Cashmere goat)
- ウールはキャメルと呼ばれる[9]。中近東などで生産されている。ふたこぶラクダの体表には2種類の毛が混在しており、太さ15〜24μm程度で長さ25〜125mm程度で非常に細く柔らかい弾力性を持った主に「ラクダ色」の毛と、太さ15〜120μmで長さ125〜300mm位の褐黒色の剛毛(刺し毛)が混じっている。剪毛(刈り取り)はせず、毎年、晩春の抜け替わりの時期に落ちたものを拾い集めて、刺し毛は取り除き、やわらかい毛だけを使う。毛布などに使われている。[9]
- アンデス山地で生産されている。
- これのウールはアルパカと呼ばれる。主にアンデス山地で生産されている。ペルーの中部から南部、ボリビアなどに分布し、海抜3千600メートルを超える高地に棲息。そのウールは、やわらかいが同時に刺し毛の特性も持っており、手触りは滑らか、弾力と光沢を持つ。繊維の細さは、若い間は23μmほどだが年齢とともに太くなり27〜28μmほどなり、その色はこげ茶・灰色・淡茶・白・黒などさまざまである。[9]
- ビクーニャ(ビキューナ)
- これのウールはビキュナなどと呼ばれている。アンデス山地で生産されている。
- アンゴラ。主にフランス、他にもチェコ、ドイツ、中国、日本などで飼育されており、そのウールは手触りがやわらかく、軽く、パステルカラーに発色し、ニットの中でも特に軽くてふわふわとした製品の材料として使うのに向いている[9]。
ウール製品
[編集]ウールの毛糸
[編集]ウールの繊維をつむいで毛糸を作る。
毛織物
[編集]毛糸を織って毛織物をつくる。
長所と短所
[編集]この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
- 長所
- 肌触りが柔らかい。
- 油分を含み、撥水性があって、濡れても保温性がある。また汚れが付着してもブラッシング等で除去しやすい。このため野外での着用に適する。
- 多くの空気を含むため断熱性が高く、通気性がありながら防寒性と保温性が高い。このため冬服や寝具(毛布)に適する。
- しわになりにくい。
- 移った臭いを放散しやすいので、風にさらすことなどで脱臭できる。
- 他の繊維よりは燃えにくい。火にさらされると焦げるが、燃え上がらない。
- 短所
- 洗うと縮む。クリーニングによってウールの油分が奪われることもある。
- 擦れたり、当て布を使わずにアイロンをかけると光ったりする。
- 虫やカビの害を受けやすい。
- 通気性が高い反面、防風性が低い。
- 磨耗に弱い。
- 人によっては触るとちくちく感じる。
- アルカリに弱い。
- 日光で黄変する。
品質保証や品質表示
[編集]世界的知名度が高いものや歴史の長いものから説明する。
ウールマーク
[編集]ウール製品が、高い品質基準をクリアしたことを示す品質保証マークとして、ウールマークがある。1964年9月当初は20ヶ国で始まったが、現在は140ヶ国で使用され、幅広く知られている。日本、イタリア等の国々では90%以上の認知度があり、繊維に関連したシンボルマークとしては、世界で最も知られているものである。 ウールマークは「コットンUSAマーク」(国際綿花表議会)とともに世界共通のマークである。
- 運営組織とその歴史
このウールマークによる品質認証の管理、またウール素材に関する啓蒙活動、各企業のウール製品の販売促進支援を世界中で実施している組織はザ・ウールマーク・カンパニーである。
ザ・ウールマーク・カンパニーの前身である国際羊毛事務局(IWS, International Wool Secretariat)は、1937年にオーストラリアの発案で羊毛生産国の出資により、イギリス帝国のロンドンで設立された。IWSはニュージーランド、南アフリカ共和国、ウルグアイなど南半球の羊毛生産国が加わった。
だが環境の変化により、1997年2月に本部をイギリスからオーストラリアのメルボルンに移転してオーストラリアン・ウール・サービセスの子会社となり、1998年7月、IWSからザ・ウールマーク・カンパニーに名称を変更、その後2001年に民営化された。
2007年10月、オーストラリアン・ウール・イノベーション(AWI)がザ・ウールマーク・カンパニーの主要資産を買い取り経営統合を実施し、シドニーに本社を移転。その後、ザ・ウールマーク・カンパニーはAWIの子会社として現在に至る。なおAWIは非営利団体であり、子会社であるザ・ウールマーク・カンパニーも(登記上は民間企業であるものの)同様に非営利で上記の活動を実施している。
こうした経緯から、ウールマークは国によって法人登記が異なる。日本支社はイギリス西ヨークシャーに本社を置く法人IWS Nominee Company Limited(ウールマークの商標登録権者)の日本支社として登録されている。なお日本支社は、東京都港区南青山にある。
- マークと認証基準
ウールマークのデザインはイタリアの著名的グラフィックデザイナーフランチェスコ・サロリアによるもので、毛糸球のフォルムをイメージしたものである。
ウールマークのラベルおよび下げ札は、AWIが定める厳しい品質基準をクリアした製品にのみ付けることが許される。マークをつけるための品質基準は以下のようなものである。
- 羊の新毛を使った製品であること(再生ウールには使用が許されない、新毛の混用率については以下を参照)。
- 各種強度や染色堅牢度等、ウールマークが定めた基準をクリアしていること。
- ウールマークライセンスをもつメーカーの製品であること(ライセンス取得のための審査(縫製の審査など)をクリアしないと、ライセンスは受けられない)。
ウールマークには新毛の混用率の違いによるバリエーションがほかに二つ存在する。またこれらの下には特定の機能や品質についての認証を示すいくつかのサブブランドが存在する。
- ウールマーク(新毛100%)
- ウールマークブレンド(新毛50 - 99.9%)
- ウールブレンド(新毛30 - 49.9%)
- ピュアメリノウール(サブブランド、高品質な羊毛として知られるメリノ種の羊から採れる「メリノウール」を100%使用した製品)
- メリノ エクストラファイン(サブブランド、メリノウール100%かつ繊維の細さが19.5マイクロン以下の高品質ウールを使用した製品)
- メリノ ウルトラファイン(サブブランド、メリノウール100%かつ繊維の細さが17.5マイクロン以下の超高品質ウールを使用した製品)
- クールウール(サブブランド、涼感と吸放湿性に優れた春夏向けウール素材を使用した製品)
- メリノパフォーム(サブブランド、汗を吸い取り放散させる機能に優れた素材・製品に使用される)
- 日本国内でのウールマーク
日本における承認(ウールマークライセンス)第一号は日本毛織(ニッケ)である。
かつて、「ウールきものマーク」も存在したこともあった(鶴の形をしたマークである)。
繊維以外にもウールマーク認定商品があり、ウール・おしゃれ着・ドライマークの中性洗剤、液体酸素系漂白剤、衣類用柔軟剤、衣類用防虫剤にも表示されている。中でも白元(現・白元アース)の「パラゾール」、「ミセスロイド」は防虫剤として世界初の認定を受ける快挙を成し遂げた。しかし、近年は洗剤、漂白剤、柔軟剤からは表示がなくなっている。
かつては各家電メーカーが洗濯機(弱水流機能付)や電気カーペットのカバー等で認定商品を生産していたが、現在では日本国内でこれらの製品を見ることはまれである。またマーク下段の英字ロゴは、従来は国によって違いがあった。日本の場合は「ALL NEW WOOL」「NEW WOOL 100%」であり、諸外国は「PURE NEW WOOL」であったが、1998年のザ・ウールマーク・カンパニーへの名称変更の際に、「WOOLMARK」へと世界的に統一された。
- スローガン
日本の「国際羊毛事務局」時代の組織スローガンは「ウールで世界に貢献する」だった。
- 広報ソング
国際羊毛事務局時代(年代不明)に、「ウール ソング」(通称「ウールマークの歌」、歌:ボニー・ジャックス、作詞:中野良介、作曲:小川よしあき)がソノシートでリリースされた。
- 日本でのCMコピー
- 洗っても縮まない
- 防縮ニットは、このラベルを目印に
- ウールは、愛着にこたえてくれます
- ついてるかな、ウールマーク
- おっ、ついてるな、ウールマーク
- 生きている、それがウールなんだ
- ウールって、新しいと思う
- 触ってごらん、ウールだよ
- とっても、ウールな人でした
- 素敵だね、このウール
- ウールは、ゆっくり夢をみる
- はい!品質ですよ。ウールマーク
- 信頼できるね、ウールマーク
- 好きです。このウール
- 日本でのCMに起用されたタレント
※[いつ?]現在はテレビCMは放送されていない。
- 他組織との協業
ザ・ウールマーク・カンパニーは2012年から日本のベストドレッサー賞と協業(コ・マーケティング)を開始した。2012-14年は「クールにウールを着こなす人」として「クールウール賞」、2015年からは「ウールファッションの似合う人」として「ウールマーク賞」を贈呈している。受賞者は以下の通り。
- 2012年:市川猿之助、2013年:綾野剛、2014年:鈴木亮平(以上、クールウール賞)
- 2015年:吉田羊(ウールマーク賞)
ステッキマーク
[編集]ステッキマークは、英国羊毛公社がラベル等の管理を行っている、ウール製品が高い品質基準をクリアしたことを示すイギリス羊毛製品の品質保証マークである。英国羊毛公社はイギリスのブラッドフォードに本部を置き、日本にも支部を持つ。
日本国内での公社商標の使用は全て、英国羊毛公社の契約・認定を得ることが必要。ライセンシー各社の公社商標使用は、商品の紡績部門から最終製品のブランド(企業)の各段階の企業が全てライセンシー契約を持つことが必要で、その上既定の基準を満たした製品のみ認められる。
英国羊毛公社は、英国内で刈られた羊毛の集荷手配を行い、英国内の選別場へ運び、オークションにかけるための等級別にわける。すべてのロットは国際基準に合わせ、ウールの状態や色などの特徴が試験される。その後、英国羊毛公社本部にてオークションにかけられ、世界中に輸出される。羊飼いの杖をあしらったシンボルマークは高品質のイメージを維持するため、公社の基準を満たす厳選された製造会社の英国羊毛製品のみに交付される。[12]
ファーンマーク
[編集]ウールズ・オブ・ニュージーランドのシンボルマークであり、美しい自然環境の象徴でもある、植物の「シダ」を形どったニュージーランド羊毛の品質保証マークである。
レーヌマーク
[編集]フランスの羊毛協会のマークであり、フランス産羊毛製品の品質保証マークである。(日本では)日本の優良ウールふとんメーカーで組織されているベストウールクラブ(BWC)とフランス羊毛協会(FWA)との合意に基づく、フランス羊毛の品質保証マーク。
赤色と青色のロゴおよび「Laines de France」[注釈 6]の文字が表示される。 レーヌマークの「レーヌ laine」はフランス語で「羊毛」の意味。
- 認定基準
羊毛ふとんにレーヌマークを付けるためには、フランス羊毛協会認定の高品質羊毛原料を使用することが必要で、品質基準として、残脂率・植物性夾雑物の残留率・PH・清浄度が定められている。[13]
ファイングレードウール
[編集]ファイングレードウールは、日本の組織によって管理されている、ウールを使用した寝具などのインテリア製品が高い品質基準をクリアしたことを示す品質保証マークである。日本国内において最も高い基準を用いており、最高品質を保証する商品にのみ使用される。日本および海外の原料商社や製造工場、公的試験機関からなるファイングレードウールクラブが品質の管理を行う。[14]
ファイングレードウールのラベルおよび下げ札は、ファイングレードウールクラブが定める厳しい品質基準を合格した製品にのみ付けることが許される。マークをつけるための品質基準は以下のようなものである。
- 羊の新毛を使った製品であること(再生ウールや反毛には使用が許されない)
- 清浄度や油脂分等、ファイングレードウールクラブが定めた基準をクリアしていること
- ファイングレードウールクラブに所属するメーカーの製品であること(ライセンス取得のための審査をクリアしないと、ライセンスは受けられない)
- 特徴
- いやな臭いやほこりを大幅に改善
- ヘたりにくい厳選された原料
- 丁寧な加工で不純物(V/M)が少ない
- 取り組み
- 原料のトレーサビリティ:海外の洗毛工場までさかのぼって原料ロット管理が可能
- 圧縮弾性基準の設置:わたの良さをとことん突き詰め、本物高級路線への差別化を徹底
- 原料商社、さらには公的試験機関も参加してのクラブ活動による情報の共有、さらなる羊毛研究、加工方法に関する様々な技術的アドバイス、クラブによる定期的品質チェック、羊毛を知り尽した限定メンバーによる高品質訴求型プロジェクト
- 一般財団法人日本繊維製品品質技術センターでの厳しい検査
ファイングレードウールクラブは、「キャンペーン・フォー・ウール」[15](英国チャールズ皇太子、プリンス・オブ・ウェールズの提唱で2010年英国においてスタートしたもの)と共に羊毛の普及活動を行っている。
語源
[編集]現代英語の表記はwoolであり、その発音は発音記号で表記すると wʊlである。他方、現代フランス語ではlaine(レーヌ)と言う。
これの語源を、その大元から説明すると、もともとはインド・ヨーロッパ祖語(印欧祖語、PIE)の wele という語であり、その語は(サンスクリット語では urna となり)ゲルマン祖語では wulno となり、古英語ではwullとなった(他方、古ノルド語では ullとなり、中期オランダ語では wolle となった)。 古英語のwull の綴りが変化して現代英語のwoolとなった。(他方、古高ドイツ語ではwollaとなり、現代ドイツ語ではwolleとなった)[16]
印欧祖語の wele を語源とする語には別の系統があり、古代ギリシア語では lenos (レノス)となり、ラテン語では lana (ラナ)となった[16]。この系統が現代フランス語で laine (レーヌ)となっている。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d defitnition of wool
- ^ a b 工業-繊維製品- 岡崎信用金庫、2019年12月15日閲覧。
- ^ Broad maternal geographic origin of domestic sheep in Anatolia and the Zagros
- ^ a b c d e f Great stories and history of wool
- ^ a b c Wool in Ancient Rome
- ^ Top10 largest wool producing countries in the world
- ^ 【世界発2019】羊の毛刈り 減るメ~人/豪州「世界で最もきつい仕事」低い定着率/進むロボ開発 職人は懐疑的『朝日新聞』朝刊2019年3月27日(国際面)2019年4月24日閲覧。
- ^ “統計 羊毛の生産トップ10と日本の輸入先”. 帝国書院. 2019年1月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l ニッケ「今さら聞けないウール素材 完全版」
- ^ Natural Fiber Arts, Rambuillet sheep
- ^ [1]
- ^ “英国羊毛公社 日本支部-トップページ”. britishwool-j.p-kit.com. 2020年8月27日閲覧。
- ^ BWC「レーヌマーク」
- ^ “Fine Grade Wool Club | ファイングレードウールクラブ – 安心という品質へ。”. 2020年8月27日閲覧。
- ^ “Campaign for Wool | Join The Campaign, Live Naturally & Choose Wool”. www.campaignforwool.org. 2020年8月27日閲覧。
- ^ a b Online Etymology Dictionary
注釈
[編集]- ^ 外から見える固めの毛をトップコートと言い、その下にあるふわふわした柔らかい毛をアンダーコートという。
- ^ なお、古代ローマの皇帝ヴェスパシアヌスは有料の公衆便所を設置したことで知られるが、これは羊毛から油分を分離するのに人間の尿が使われていたためである。
- ^ なお、ケラチンは硫黄原子を含むα-アミノ酸であるシステインを含むため、燃やすと特有の刺激臭がする。
- ^ また、ニュージーランドではミュールシングが2018年に法律で正式に廃止されたので、すでに動物福祉の観点で見ても良質なウールとなっている。
- ^ ひとこぶラクダは毛が短いので、ほとんど利用されない。
- ^ 発音をカタカナ表記すると「レーヌ・ドゥ・フランス」となる。