前回までの連載ではDNA(デオキシリボ核酸)やタンパク質、脂質といった生体物質を使って、ナノサイズのロボットをつくろうとする研究を紹介してきました。医療応用などを考えた場合、私たちの体にもある物質でできたロボットは、金属やプラスチック、シリコンなどでできたロボットより、親和性や安全性などの面で有利です。
ただ環境分野など医療以外への応用も考えれば、生体物質でできた「柔らかい機械」と、従来の「硬い機械」とを組み合わせたロボットにも、大きな可能性があるでしょう。両方の利点や得意な面を、あわせもつことができるからです。今回からは、生命と機械を融合させていこうとする試みに注目していきます。
アリは体の5倍も重い物体を担げる
「虫けら」という言葉は「取るに足りない」とか「何の役にも立たない」という意味に使われます。あの小さなアリなどは、たぶん虫けらの代表格でしょう。しかし本当にアリは、取るに足りない生き物なのでしょうか?
例えば何かを運ぶ能力を考えてみましょう。日本でよく見かける体長5ミリメートル前後、体重4ミリグラム程度のクロヤマアリは、体の5倍も重い物体を持ち上げて歩けます。引きずるだけなら25倍までOKだそうです。人間で言えばグランドピアノ1台(約300キログラム)を担いで歩き、5台くらいを引きずれることになります。
力持ちなだけではありません。床の上に甘いものを落としていたら、いつの間にか家の中にアリの行列ができていた、という経験はありませんか? アリは非常に敏感な嗅覚を持っています。また餌のある場所へ仲間を導くために、臭いがする化学物質を分泌して「道しるべ」をつけることもできます。
そしてご存知の通りアリは複雑な巣をつくり、そこで社会生活を営んでいます。協力して餌を集めたり、子育てをしたり、敵と戦ったりするための知能とコニュニケーション能力を持っているのです。その巣で自ら増殖し、広がっていきます。
さらにオスのアリや、いずれ女王アリとなる若いメスには「羽アリ」となって飛ぶ能力さえあります。泳ぐことはできませんが、水に落ちても長時間、浮かんでいられるようですので、一時的にせよ陸海空のどこでも移動可能ということになります。
小さくても、こんなに高性能な機械を、人間はつくれたことがあるでしょうか?