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予知、予測、予言
前回(〈「明日朝、地震アル」と"地震予知"した科学少年がいたのをご存知か〉http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56136)に引き続き、「地震予知」にまつわるニセ科学の話である。
6月18日朝、大阪府北部を震源とする比較的大きな地震があった(M6.1)。気象庁による観測が始まって以来、大阪府内で震度6弱以上を観測した初めての地震である。はたしてこの地震は、どの程度予測されていたのだろうか?
ご存じの方もいるだろうが、阪神・淡路大震災と東日本大震災を受け、政府と地震学者たちは事実上「予知」の看板をおろしてしまった。前兆をとらえるための試みは放棄し、確率論的な「予測」によって減災につなげようという方針に転換したのだ。
政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が発表している活断層の「長期評価」や「地震動予測地図」が、その典型だろう。過去の地震活動の履歴から、「〇〇断層で今後30年間にM7以上の地震が起こる確率は○%」という風に予測されている。
大阪北部地震の震源断層はいまだ特定されていないが、関与が疑われている断層帯はある。有馬-高槻断層帯、上町断層帯、生駒断層帯だ。地震本部が出していた長期評価によれば、M7.5程度の地震が今後30年間に起こる確率は、それぞれ最大で、0.03%、3%、0.2%であった。
今回の地震は長期評価の想定よりマグニチュードが1以上小さい。この程度の規模の地震については、確率論的な予測さえなされていないというのが現状だ。
6月26日には、2018年度版の全国地震動予測地図が発表された。「震度6弱以上の発生確率がゼロの地域は一つもない。全国どこでも注意が必要」という地震本部のコメントに対しては、「そんな情報にどれほどの意味があるのか」とSNSを中心に疑問の声が噴出している。
「予知」も「予測」も使いものにならないとなると、幅を利かせてくるのが「予言」だ。必ずしも神秘的な意味ではない。まだ仮説の段階の事象や、いつかは起きるだろうという出来事が、科学的に「予言」されることは多々ある。
例えば、「いつか九州の巨大カルデラで破局噴火が起き、西南日本が壊滅状態になる」「数億年後にはすべての海水がマントル中に取り込まれ、海がなくなる」といった言説は、一定の根拠をもつ「予言」である。
大阪北部地震の直後も、夕刊紙やネットニュースで「南海トラフ巨大地震」の文字が躍っていた。阪神・淡路大震災以降、大きな直下型地震が起きるたびに持ち出される「予言」だ。これは、「南海トラフ地震の前後数十年間に、西日本の内陸部で地震活動が活発化する」という仮説にもとづいている。
不真面目なメディアや目立ちたがりの学者は、人々の耳目を集めるためだけに、こうした「予言」を声高に吹聴する。「予言」が本当に意味するところや、裏付け、妥当性などが冷静に語られることは、驚くほど少ない。