2024.07.13
# 言葉 # 多様性 # ことば

自分の言葉遣いのクセを知っていますか? ことばの多様性について

【連載 「ことばの再履修」 第5回】
思考家/批評家/文筆家の佐々木敦さんによるWEB連載「ことばの再履修」の第5回。これまでの「気構え編」(←佐々木さん談)の最終回となる今回は、「自分のことば」を獲得するためにも必要な「ことばの多様性」についての理解を深めていきます。

私とあなたの言葉は同じではない

 ひと頃、生物多様性という言葉をよく目にしました。環境省発行の「環境白書」には、こんな定義が記されています。

「生物多様性」とは、自然生態系を構成する動物、植物、微生物など地球上の豊かな生物種の多様性とその遺伝子の多様性、そして地域ごとの様々な生態系の多様性をも意味する包括的な概念である。そして、地球の生態系の中では生物が刻一刻と生まれ、死に、エネルギーが流れ、水や物質が循環しているが、こうした自然界の動きも視野に入れた考え方である。生物多様性は遺伝子、種、生態系の3つのレベルでとらえられることが多い。
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h08/10009.html

 また、同じく環境省の、その名も「生物多様性センター」のホームページには、こうあります。

生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。地球上の生きものは40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています。
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/about.html

 言葉にも多様性があります。それはそうでしょ、と思われるでしょうが、今回の話は、いわゆる「言語」のことではありません。確かに現在、数え方によって異なりますが、世界には3000から7000の言語があるとされています。第1回でも触れましたが、もっとも数多くの人に使用されているのはもちろん英語で、2022年の調べで日本語は13位でした。割と上位なのは日本の人口が1億人くらいいるからで、実際には日本以外ではほとんど使用されていないマイナーな言語であるということも前に述べた通りです。

 しかし、ここで考えてみたいのは、日本語もひとつではない、ということです。もちろんこれは、英語だって中国語だってポルトガル語だって韓国語だって、あらゆる言語が本当はひとつではない、ということなのですが、私たちがたまたま使用しているのは、今こうして書いて/読まれている日本語であり、だから(願わくば)意味が通じているのだけれど、しかし実のところ、私の言葉はあなたの言葉と同じではない、そして、私の言葉もひとつではない、という話がしたいのです。

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