穏やかな瀬戸内に浮かぶその島は、はじまりの地だといわれています。古代、ふたりの神が地上に降り立って、日本の島々を次々に生み落としたときに、最初にできたとされる島・淡路。その地を、森山未來さんとともに歩きます。彼が、淡路や地元・神戸をとおしてみつめる、過去、現在、未来に、ひととき視線を重ねてみましょう。
古の神話の島に招かれて
静かな波が打ち寄せる浜辺。きび糖のような細かな砂が素足に触れる。寝転んで空を仰ぐ。痛いほどの蒼穹が広がる。森山未來さんと淡路の過去、現在、未来をめぐる旅は、島の南端、阿万海岸からはじまった。
神戸生まれの彼にとって、淡路はどんな場所なのだろう。
「実は住もうと考えたこともあるくらい淡路には興味があって、奥深い場所やなと思ってました。
もともと東京以外の拠点をもとうとしていた矢先、この半年ぐらい神戸での仕事がつづいたんです。神戸界隈で『i ai』という映画の撮影をしたり、神戸市の文化施設からオファーがあって振付の仕事をしたり。その流れで立ち上げにかかわることになったのが『Artist in Residence KOBE(AiRK)』なのですが、それで神戸に滞在しながらあらためて地元をリサーチしていたんです。
一方で、僕は海外での活動を経て、日本人として日本文化を認識したうえで、自分がどういう身体表現や芸能を志向していけばよいかをずっと考えていて。
たとえばシェイクスピアだとしたら、ギリシャ神話やキリスト教の聖書を土台に戯曲を書いている。そういう作品の立ち上がり方が海外にあるなかで、じゃあ日本ではと考えたときに、それは『古事記』かもしれないと思った瞬間があったんです。歴史書だけど、神々がでてくる神話でもあり、寓話、民話、偉人伝が織り交ぜられながら物語が紡がれている。
古事記のなかで、淡路が一番最初にできた島として描かれているのを知って、そこから気になる場所になりました。昔からずっと大切にされてきた土地なんでしょうね」