2024.07.11

自由・平等・民主主義を生んだ古代ギリシア。しかしその社会は「奴隷」に支えられ、「賄賂」が横行していた!?

真理を探究する自然科学と哲学、現代に通じるデモクラシーをも生み出し、「ヨーロッパの源流」とされてきた古代ギリシア文明。しかし、近年の研究では、その意外な成り立ちと暗部も照らし出されている。「地中海世界の歴史〈全8巻〉」の最新第3巻『白熱する人間たちの都市』(本村凌二著)と、講談社学術文庫の新刊『賄賂と民主政 古代ギリシアの美徳と犯罪』(橋場弦著)で見えてくる古代社会の闇とは――。

哲学者には「余暇」と「奴隷」が必要?

メソポタミアからローマ帝国にいたる文明の歴史を、古代ローマ史研究の第一人者・本村凌二氏が新たな視点で描く「地中海世界の歴史〈全8巻〉」(講談社選書メチエ)。すでに刊行された第1巻・第2巻は、発売まもなく重版が決定し、大きな反響を呼んでいる。

シリーズ第3巻となる『白熱する人間たちの都市』が取り上げるのは、エーゲ海とギリシアの文明だ。

〈エーゲ海は紺碧に彩られた人類の愛する海である。この美しい情景のなかで、古来、ギリシア人はこの世を讃美することにことさら熱心であったという。それとともに、この世の仕組みに向けられたまなざしがめばえ、自然や宇宙の根源と法則を究めようとする姿勢が目立ってきた。やがて、人間は自由であり平等であることを自覚するようになり、その政治表現として民主主義すら生み出すようになった。〉(『白熱する人間たちの都市』p.3)

眩しい陽光のなかで自由と平等を愛し、民主政治を生み出した人々――。しかし、その社会は、現代人には容認しがたい暗部を抱え込んでいた。そのひとつが、奴隷の存在だ。

〈古代ギリシアでは、奴隷の存在に疑念がないどころではなく、むしろ奴隷制は当然のごとく認知されていた。よほど貧しい市民でないかぎり、一人二人の奴隷はいたという。だから、豊かな市民なら数名あるいは10名以上の奴隷を所有していたのは当たり前のことだった。〉(同書p.286)

ギリシアの壺に描かれたオリーブを収穫する奴隷。photo/gettyimages

このような雰囲気のなかで、自由を享受する市民の間では、商業や手工業ばかりか、農耕などの生産労働さえも卑しいものと蔑視する風潮も出てきたらしい。

〈近現代人には「自由人」のかたわらに「奴隷」がいるという社会は信じがたいものがある。しかも、プラトンやアリストテレスのような卓越した知識人すらも臆面もなく「自然による奴隷」つまり「生まれながらの奴隷」などと言っているのだから、古代社会のなかにはどこか底知れないところを感じさせられてしまう。〉(同書p.290)

なぜ、自由・平等の観念とともに、このようなことが受け入れられていたのだろうか。

どうやら、ポリスの市民が国家や政治について議論したり、哲学的な思索をめぐらすためには、なにはともあれ「余暇(スコレ)」が必要であり、市民の余暇が奴隷の担う労働に支えられるのは当然のことと考えられていたらしい。

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