2024.07.04

「あんたがメールを見落としてたんでしょ」…朝日新聞の人気YouTube「朝日新聞宇宙部」が「ハワイの星空」を伝えられるようになるまでに起こった「予想外のバトル」

「宇宙部の活動は朝日新聞にとって久しぶりに明るい話題ですからね」(朝日社員)
毎年のように発行部数の減少が伝えられる新聞界で、全国紙各社が新しい事業を模索している。2024年4月、朝日新聞の公式YouTubeチャンネルAsahi Astro Live(朝日新聞宇宙部)がチャンネル登録者数10万人を突破した。

このチャンネルをたった一人で立ち上げ、運営する「管理人」が、名古屋大学理学部素粒子物理学科修士課程修了の名物記者・東山正宜氏である。Asahi Astro Liveではハワイ・マウナケア山頂と、岐阜県・木曽の天文台に設置された星空カメラの映像を24時間ナマ配信し、日蝕や流星群などの「天体ショー」では数十万人の視聴者を集める。いったい、「朝日新聞宇宙部」とはどんな組織なのか。朝日になぜ、どうやってそんな組織が生まれたのか。星空撮影に懸けるサラリーマン記者の情熱――。

『朝日新聞宇宙部』連載第4回

第3回記事『発行部数減少の朝日新聞で「久しぶりに明るい話題」…「朝日新聞宇宙部」の超人気コンテンツ「星空ライブ」の裏側』より続く。

国立天文台ハワイ観測所の天文学者からの打診

木曽観測所からの星空ライブが始まった2019年4月、私は半年所属したデジタル編集部から再び科学医療部に戻り、デスクをすることになった。

デスクは、「1000年目の望月」ライブの際に面倒くさい上司の役職で登場したが、編集局長補佐らの言いたい放題の意見に右往左往したり、記者の「そんな無理難題に応える必要ないっすよ!」といった憤りをなだめたりする、それはもう絵に描いたような中間管理職である。

恐らくすべての新聞社がそうだと思うが、記事はデスクの目を通らないと世に出せない。デスクは第一読者であり、記事の修正役であり、複数の記者がチームで取り組むような場合のとりまとめ役でもある。

ということで、いったんデスクになってしまうと、自分で取材したり、記事を書いたりすることは基本的になくなり、別の記者の記事の世話係に徹することになる。だから、取材がおもしろくて記者になったような人間からすると、中間管理職でもあるデスクは苦痛でしかない。

ただ、それなりのキャリアを積んだ筆者以外の記者がチェックした原稿しか掲載しないという方針は、メディアと個人ブログのもっとも大きな違いと言え、絶対に必要な役職であることも間違いない。私は、ある程度の年次になった記者がやらなければならないお勤めの一つと思っている。

もちろん、デスクといっても取材したり記事を書いたりしてはいけないわけではないのだが、デスクというだけあって、机の前に拘束されている時間が長く、おのずと遠出を伴う取材は難しい。木曽観測所にライブカメラを設置できたのは、個人的にもぎりぎりのタイミングだった。

国立天文台ハワイ観測所の天文学者、田中壱さんから「マウナケア山にも星空ライブカメラを設置することは可能でしょうか」と打診があったのは、木曽観測所での星空ライブが始まって1年が経った2020年夏のことだった。