「カネカネカネ!」「カネカネカネーーー!!!」…「朝日新聞宇宙部」の記者が目の当たりにした「日本人の流れ星への願い」
「宇宙部の活動は朝日新聞にとって久しぶりに明るい話題ですからね」(朝日社員)
毎年のように発行部数の減少が伝えられる新聞界で、全国紙各社が新しい事業を模索している。2024年4月、朝日新聞の公式YouTubeチャンネルAsahi Astro Live(朝日新聞宇宙部)がチャンネル登録者数10万人を突破した。
このチャンネルをたった一人で立ち上げ、運営する「管理人」が、名古屋大学理学部素粒子物理学科修士課程修了の名物記者・東山正宜氏である。Asahi Astro Liveではハワイ・マウナケア山頂と、岐阜県・木曽の天文台に設置された星空カメラの映像を24時間ナマ配信し、日蝕や流星群などの「天体ショー」では数十万人の視聴者を集める。いったい、「朝日新聞宇宙部」とはどんな組織なのか。朝日になぜ、どうやってそんな組織が生まれたのか。星空撮影に懸けるサラリーマン記者の情熱――。
『朝日新聞宇宙部』連載第1回
1000年前に見た満月
「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」
藤原道長が詠んだあまりに有名なこの歌が、朝日新聞宇宙部が誕生するきっかけになった。
2018年10月6日、マウナケアからの特別ライブにも登場してくれた兵庫県明石市立天文科学館の井上毅館長が、ツイッター(現X)に次のような投稿をした。
11月23日の満月が、道長の「望月」からちょうど1000年目の満月だというのだ。
私は投稿があった10月の1日付で、長く在籍していた科学医療部を離れ、デジタル編集部という部署に異動していた。デジタル編集部とは、朝日新聞社のウェブサイト「朝日新聞デジタル」を中心に、記事だけではなく、写真や動画といったデジタルコンテンツをもっと発信していこう!という目的で作られた部署だ。
ご承知のように、新聞の発行部数は右肩下がりで、朝日新聞の発行部数もピークの800万部超からみるみる下がり、近年は毎年30万~50万部という政令市の世帯数なみの部数を失っている。
だから、朝日新聞としては、なんとか紙以外のところでも収益をあげていかなければいけない。その試みの一つがデジタルで、特に、これまで新聞社がそれほど力を入れてきていなかった動画コンテンツに期待がかかっていた。
動画の撮影や編集ができそうな記者がデジタル編集部に集められ、テレビ朝日出身のデスクのもとで、朝日新聞YouTube向けの動画を制作することになった。とはいえ、そこはしょせん素人集団である。動画編集ソフト「プレミアプロ」はとりあえず使えるようにはなったものの、一ヵ月ほどやってみて分かったことは、「動画の編集はめちゃくちゃ手間と時間がかかる」ということだった。
ネタ探しも難しい。YouTubeなんだからおもしろおかしい動画でないと見てもらえないのは分かっているのだが、朝日新聞の公式チャンネルということで、羽目を外すにも限界がある。おのずと、記事の内容を解説してお茶を濁すといった動画が続くようになっていた。