2024.07.02

文明の転換期には、人類も変貌している。古代地中海の4000年史、まもなく第3巻刊行!

「地中海世界の歴史」本村凌二氏に聞く(後編)

メソポタミア文明からペルシア帝国、古代ギリシア・ローマまで、「地中海文明」の全貌を描くシリーズ「地中海世界の歴史」。好評を受けてまもなく第3巻が刊行される。完結に1年半を要する全8巻の大著だが、その内容は、単に4000年間の史実の羅列ではなく、新たな歴史の見方や大胆な仮説に満ちている。一人で全巻を執筆する本村凌二氏に、各巻の読みどころを聞いた。

「地中海世界」は神々を共有している

――第1巻『神々のささやく世界』と、第2巻『沈黙する神々の帝国』は、同時発売ですね。

本村 この2冊は、ぜひ同時に刊行したかったのです。というのは、第1巻はメソポタミア文明や、エジプト文明などを取り上げ、第2巻はその後のオリエントに栄えた大帝国、アッシリアとペルシアを扱うわけですが、この2冊の間に、非常に大きな文明の転換が起こっている。その変貌をぜひ読み取っていただきたいのです。

その「文明の転換」とは、「神々の声が聞こえなくなった」ということに大きく関係があるのではないかと思います。メソポタミア文明を興したシュメール人の神話や史料――たとえば『ギルガメシュ叙事詩』などを読んでいくと、かつての人間には神々の声が実際に聞こえていたんじゃないかと思えるんですね。「気のせい」や幻聴ではなく、当時の人間の現実として。

それが、アルファベットなどの文字が開発されて以降、紀元前1千年紀に入ると、神々の声が聞こえなくなってくる。「文字の発明」と「神々の沈黙」にどんな関係があるのか、史料的に証明することは到底できませんが、言葉というものが「話し、聞く」ものから「書き、見る」ものに変わったということは、神々を感じる人間の心性にも、重大な変化をもたらしたのではないでしょうか。

最初の世界帝国、アッシリアの王のライオン狩り。Photo/gettyimages

本村 そしてこの頃から、神の声を聞く能力を持った「預言者」が次々と現れ、また、多くの人間集団を従える強大な権力も誕生してくる。オリエントの神々は、ギリシア・ローマで共有されている部分も多いですし、最初の「世界帝国」と言われるアッシリアやペルシアでの人類の経験は、のちのローマ帝国にも息づいていくことになるでしょう。

  • 【新刊】「社会」の底には何があるか
  • 【新刊】日中戦争 殲滅戦から消耗戦へ
  • 【新刊】仕事
  • メチエ 9月の新刊
  • 学術文庫 9月の新刊
  • 【新刊】空の構造
  • 【新刊】拷問と処刑の西洋史
  • 選書メチエ 創価学会
  • 選書メチエ 地中海世界の歴史3
  • 学術文庫 死の商人