末っ子はアレルギーになりにくい?
ストラチャン博士は、1958年に生まれた1万7000人の子どもの23年間の追跡調査を行い、一緒に暮らす兄弟姉妹の数が多いほど、特に年長の兄弟姉妹を持つ子どもほど将来、花粉症や気管支喘息などのアレルギーを発症する確率が低い(すなわち末子は最もアレルギーが少ない)ということを発見しました。このことは、その後、52か国の50万人の子どもたちの追跡調査によっても証明されました。
自己免疫疾患やアレルギーの発症が少ないことが統計学的に示唆されている生活環境
- 兄弟姉妹の数が多い
- 自然分娩で生まれた
- 母乳で育った
- 非衛生的な環境で育った
- 抗生剤の使用が少なかった
- 動物を飼育している
さらに、ペットを飼っている人、特に犬を飼育している人は、アトピーに罹患する確率が低かったのです。また、農家で生まれた子供たち、あるいは、小さいころに農場で生活した経験をもつ子供たちはアレルギーの発症が少ないこと、また、幼少時に広域抗生剤(広い範囲の菌を殺す抗生剤)の使用歴があると、その後にアレルギーを発症することが多いことも、相次いで報告されました。
そしてこの考え方に基づき、アレルギーと同じく免疫の暴走によって起こるとされる自己免疫疾患についても調査が広げられました。そして、アレルギーと同様の結果が得られたのです。すなわち兄弟姉妹の少ない子ども、特に長子は、気管支喘息などのアレルギーだけでなく、1型糖尿病や多発性硬化症などの自己免疫疾患にかかる確率が高かったのです。
旧東ドイツ市民の運命
1989年のベルリンの壁の崩壊によっても、興味深いことがわかりました。壁の崩壊前、西ドイツは東ドイツよりも経済状況がよく、西ドイツ市民は東ドイツ市民に比べて衛生的な環境に住んでいました。また、東ドイツでは石炭などによる大気汚染も西ドイツよりもはるかにひどい状態だったのです。
ところが、東ドイツと西ドイツの住民を比べると、西ドイツに住んでいる人たちのほうが、気管支喘息などのアレルギー疾患の発症が多かったのです。
そして、ベルリンの壁の崩壊の翌年に東西ドイツが統一され、東ドイツの衛生環境も大幅に改善しました。ところが、この壁の崩壊後に、東ドイツでアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患が多発したのです。そしてアレルギーの発症は、その人たちが生まれた年によって大きな違いがありました。
壁が崩壊したときに、すでに3歳以上であった人たちの間ではアレルギーは増加せず、それ以降に東ドイツで生まれた人たちの間で、アレルギーが多発していたのです(Lancet 1998; 351: 862)。