原始背景重力波をとらえる手段とは!
ここで、読者から質問が出るかもしれません。
「原始背景重力波の計算では、時空の揺らぎを量子論を使って計算するが、それには『量子重力理論』が必要なはずで、肝心な量子重力理論は完成していないではないですか」と。
たしかにそのとおりです。時空という場そのものを量子論で記述する理論は、量子重力理論とよばれ、まだその理論は見つかっていません。
しかし、量子重力理論が必要とするエネルギーは、10の19乗ギガ電子ボルトのプランク・エネルギーだと考えられています。
一方、当初のインフレーションモデルは、それより1000倍くらいエネルギーが低い大統一理論を念頭においていました。(プランク・エネルギーに比べて)ずっと低エネルギーの現象なので、量子重力理論を用いなくとも、近似的な計算で正しい予言を引き出せると多くの物理学者は考えています。
いずれにせよ、原始背景重力波こそが、インフレーション期の宇宙を見る窓なのです。原始背景重力波という、宇宙の誕生を知るための重力波は、人類が観測するには難しい超長波長の重力波となります。
これまで、この宇宙を見る窓は閉ざされていました。しかし、いよいよ人類はその窓の開け方を考える時期に入ったのです。それが「パルサータイミング法」です。
パルサータイミング法のイメージ(図:酒井春)
このパルサータイミング法について詳しく見ていく前に、パルサータイミング法によって解明が期待される、もう一つの大きな宇宙の謎について以降の記事で紹介したいと思います。