インフレーションは宇宙に何を残したのか?
それは、宇宙のインフレーションの時期に生成した「揺らぎ」を確かめればいいのです。
ここで大きな問題がひとつあります。インフレーション期の宇宙における場は、超高エネルギーの世界なので、原子や原子核などの通常の物質ではありません。
そんなインフレーション期の場の揺らぎが、現在の物質にどう対応するのかは簡単な問題ではありません。また、これには諸説あります。
ここで役に立つのが、これまでの記事で見てきた重力波なのです。
重力波は時空の曲がりの変動で、それ自身は物質でないため、途中で別のものに変換されてしまう(つまり、途中で目減りする)ことがありません。この宇宙には、大昔の宇宙における時空の曲がりの情報が残存しているはずです。
この宇宙初期の重力波が、「原始背景重力波」とよばれます。
原始背景重力波の大きさは求められる?
ここで少し考えてみましょう。インフレーション期に生成される原始背景重力波の理論計算の方法は、以前の記事で紹介した方法と基本的に同じです。
念のためもう一度ふれると、初期の宇宙は今の姿と比べるとミクロなはずです。そうした非常にミクロな宇宙における物理状態は、量子論に従うはずです。実際、ミクロな世界の原子核やクォークは量子論に従っています。
よって、初期宇宙における何らかの物理量が、何らかの場(古典電磁気学でたとえると、電場や磁場など)の量子論の法則に従っていると考えるのが自然です。すると、その場が宇宙のインフレーション時期にどう振る舞うかは、量子論的な計算で求まります。この計算で得られる場の揺らぎを「量子揺らぎ」とよびます。
このインフレーション時期における場の揺らぎは、直接、現在の宇宙の物質の揺らぎそのものではありませんが、原理的には、インフレーション期での揺らぎから、現在の宇宙での物質の密度の揺らぎが計算可能となります。
ただし、ここでは時空に存在する物質的な場の揺らぎを計算したものが、物質の初期揺らぎの起源です。一方、当時の時空の一様等方宇宙からのずれを場の揺らぎとして量子論の法則に従って計算したものが、原始背景重力波です。