いくら進化しようとも、この世界に「極楽は実現しない」…それでも「人類は極楽を作ることができる」と考えられる、じつに納得の理由

『エースをねらえ!』に登場する「地獄と極楽」

『エースをねらえ!』という山本鈴美香氏のマンガがある。50年ほど前に連載されていたもので、岡ひろみという女の子が高校に入ってからテニスを始めて、世界のトップを目指して駆け上がっていくマンガである。当時のテニスブームを引き起こした人気マンガとしても知られている。

その『エースをねらえ!』で、岡ひろみを指導する人物として、宗方コーチが登場する。彼は含蓄深いことをいろいろと言う人で、私の中学校の友人は宗方コーチの言葉をまとめた「宗方語録」なるものを作っていたほどだ。その宗方コーチの親友(ややこしくてすみません)が、マンガの中で話したたとえ話に、こんなものがあった。

地獄では、ご馳走がものすごく大きな皿に山盛りになっている。ところが、それを食べるための箸もものすごく長いので、ご馳走を自分の口に入れることができない。そのため、地獄に落ちた人々は、いつも飢えていて世界中を呪っているという。

それでは、極楽はどうかというと、じつは極楽にも同じものが置いてある。ところが、極楽の人々は飢えることがない。なぜなら、極楽の人々は、ものすごく長い箸でご馳走を挟むと、「まず、あなたからどうぞ」と、皿の向こう側にいる人の口にご馳走を入れてあげるからだ。そのため、極楽の人々はいつも満ち足りていて、仲良くくらしているのである。

出典:『エースをねらえ!』(山本鈴美香・作、集英社、単行本10巻

もちろん、これは架空の話だが、こういう極楽の人々は、実際に存在し得る可能性がある。

巨大なお皿とご馳走、そしてものすごく長い箸を準備することは、技術的には難しくないし、「食事のときは、長い箸を使って、向かい側に座った人の口に食べ物を入れてあげましょう」というルールを決めて共同生活を送ることも、決して不可能ではない。たとえば、どこかの島を買い上げて、こういう地上の極楽を作ろうと思えば、(あまり現実的ではないけれど、一応)作ることは可能なはずだ。

進化は地上の極楽を作り出すことができるのか

ところで、地上の極楽を私たちの意思で作ることは一応可能だとして、そういう人々を進化で作り出すことも可能だろうか。

極楽にいるような人々を進化させるためには、利他行動を進化させなければならないけれど、そういうことはできるのだろうか。

生物は自然淘汰によって、子の数(正確には繁殖年齢に達する子の数)を増やすように進化する。周囲の環境に適応するように進化すると、子の数も増えることが多いので、「生物は自然淘汰によって周囲の環境に適応するように進化する」という言い方をすることもある。この適応の程度を「適応度」と言う。適応度を数値で表す場合は「ある個体が生んだ子のなかで繁殖年齢に達した子の数」で表すことが多い。

自然淘汰は、たいてい個体の適応度を上げるように働く。しかし、ある個体が持つ形質に自然淘汰が働いたとき、その影響が及ぶのは、その個体の適応度だけとは限らない。その個体の血縁者の適応度に影響を与えることもある。

このような場合、自然淘汰は、その個体だけでなく、その血縁者も含めた適応度に対して働くと考えられる。こういう自然淘汰を「血縁淘汰」と言う。この血縁淘汰によって、利他行動が進化する場合があるのである。

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