宇宙を記述する数式「アインシュタイン方程式」はこうして生まれた!「時間の曲がり」とは何を意味するのか
宇宙空間の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。この記事では現代の物理学でも最大の謎の一つとされている「重力」について考察しながら、アインシュタインが生み出した宇宙を記述する数式「アインシュタイン方程式」がどのように生まれたのか、その思考について考えていきます。
*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
アインシュタイン方程式の概念とは
重力に関する逸話として、ガリレオ・ガリレイが行ったとされるピサの斜塔での落下実験があります。これは、物質の性質によらず同じ加速度で落下するという事実です。
以前の記事で紹介したように、時空の曲がり具合は時空の幾何ですから、ガリレオの実験結果である同じ加速度で落下することと整合します。
それでは、時空の曲がり具合を決めているものは何でしょうか。
物質のエネルギーと運動量が保存することを表す数式が知られています。
アインシュタインは、その数式と「ビアンキ恒等式」とよばれるリーマン幾何学における恒等式(変数の間で必ず成り立つ関係式)とが同じ形であることに気づきました。
このことから、彼は、のちにアインシュタイン方程式とよばれる「重力場に対する方程式」にたどり着きました。
ここで、重力場という新しい言葉が出てきました。重力と言った場合、作用する「力」のことを指します。そして、その力は空間の各点で物体に及ぼされるため、この力が作用する空間を「重力場」とよびます。
実は、同時期にゲッチンゲン大学(ドイツ)の大数学者ダフィット・ヒルベルトもまた、重力場に対する方程式を模索していましたが、その競争にアインシュタインは勝ったのです。
アインシュタイン方程式は、物質の分布と時空の幾何(これは、重力を意味します)を結びつける方程式です。物質の分布を仮定すると、それに対する重力場(時空の幾何)に対する方程式となり、その方程式を解くことにより、重力場が求まるのです。
時空の曲がり具合を記述するためには
さて、ここで重要なことは、曲がり具合は1ヵ所では測れないということです。
たとえば、地表の1点は平らにしか見えません。この事実は、一般相対性理論における「等価原理」と密接に関係します。ここでの等価原理とは、時空がたとえ曲がっていても、その時空における任意の1点では、曲がりのない場合の物理学、つまり、特殊相対性理論(重力を除いた相対性理論です)が成り立つということです。そのため、曲がり具合を論じるには、その点と周辺の点とを比較する作業が必要となります。
この比較する作業を数学的に定式化して得られる幾何学が「リーマン幾何学」です。