登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。
運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。
今回は、消費カロリーを計算して、食糧を最適化できる驚くべき方法をご紹介します。
*本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「登山のエネルギー方程式」とは何か?
登山は重い荷物を背負って、長時間上り下りの山道をあるくため、多大なエネルギーを消費します。山で疲れないためには、適切な食糧計画や水分補給が必要です。そのために、どのくらいのエネルギーを消費するかがわかる「登山のエネルギー方程式」を考えました。
たとえば、平地を走るときのエネルギー消費量(kcal)は、走スピードによらず「体重(kg)×走距離(km)」という簡単な式で求めることができ、ランナーの間ではよく使われています。体重60kgの人が42kmのフルマラソンをすれば、2520kcalと計算できます。
登山の場合には、「体重(kg)×行動時間(h)×5」という式が成り立ちます。ただしこれは、軽装かつ標準的なコースタイムで歩くことを前提としています。そこで、ペースがもっと速い/遅い場合や、荷物が重い場合にも当てはまる汎用性の高い式を作ろうと、実際の山で歩行ペースやバックパックの重さを変えて実験を重ねました。
その結果、図のような「登山のエネルギー方程式」を作ることができました。この式は、A時間の要素、B距離の要素、C重さの要素、という3つで構成されています。これを使えば、「体重(kg)×行動時間(h)×5」よりも正確な値を求めることができます。
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A~Cのうち、Bはコースごとに固有の値となります。Aについても、ヤマップなどにあるような標準的なコースタイムを当てはめれば、ほぼ固有の値と見なすことができます。そこでAとBを足した値を、そのコースに固有な負荷の大きさを表す値という意味で、「コース定数」と名づけました。登山者になじみの深い用語でいえば「体力度」に相当します。