登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。
運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。
今回は、山での転倒や滑落が何故起こるのか、その原因を解説していきます。
*本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「登山者の転倒事故」と「高齢者の転倒事故」の関係
登山者の増加と共に痛ましい事故のニュースも毎日のように目にします。山での転倒や滑落は何故起こるのでしょうか。
現代社会では、高齢者の転倒事故が問題となっています。「老化は脚から」と言われているとおりで、加齢によって脚の筋力が低下し、それにともなってバランス能力も衰えます。その結果、日常生活の中でも転んでしまい、骨折して寝たきり生活になるという問題です。
じつは、登山者の間で多発している転倒事故の本質も、これと同じだというのが筆者の考えです。登山者の脚力やバランス能力は、運動をしていない同年代の人と比べれば、確かに優れています。
しかし山では、下界での生活とは比較にならないほどハードな運動をします。それに耐えかねて、転ぶ事故が多発していると見ることができるのです。
筋力やバランス能力の低下が転倒事故につながっていると見ることができる photo by gettyimages
山では、特に下りの場面で筋力が低下しやすくなります。
そこで、下りではバランス能力も低下するというデータを紹介します。次のページでは、男子の体育大学生11名が、閉眼片足立ちテスト(目をつぶって片足で何秒立てるかを測るテスト)を3種類の条件で行った結果を紹介します。