じつは、大腿四頭筋に「あまりに不自然」な筋力を発揮させていた…下山トラブルを防ぐ「4つの対策」を公開しよう

登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。

運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。

今回は、転倒などの事故の原因になる筋の疲労についての解説をご紹介していきます。筋の中でも、脚の大腿四頭筋は、下りの際に大きな負担がかかっています。どどうトラブルにつながるのか、その予防策も含めて、見てみましょう。

*本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

上りより下りの事故の方がずっと多い…原因は筋の疲労

上りはつらいが下りは楽、と考えている人もいると思います。しかしこれは誤りで、下りでも疲労は起こります。しかもそれは、上りとはまったくちがう要因で起こるのです。

上りでは乳酸の蓄積によって疲労が起こると言いましたが、下りで疲労したときに乳酸値を測っても、安静時の値と変わりません。また、心拍数や主観強度の値も下りでは低いのです。

下りでの疲労は事故にも深くかかわっています。一般登山道で起こった事故を調べてみると、上りよりも下りでのほうがずっと多いのです。具体的には転ぶことによる事故です。下りの運動によって脚の筋が疲労し、自分の体重を支えきれなくなって、転んでしまうのです。なぜこのようなことが起こるのか、これもまず身体の仕組みから考えていきましょう。

【写真】下りでの疲労は事故にも深くかかわる下りでの疲労は事故にも深くかかわる

下りでの筋力発揮は「不自然」

図「上りと下りでの大腿四頭筋の使われ方の違い」は、登山の上りと下りでの脚筋の使われ方を、階段の昇降で模擬したものです。上り・下りを問わず、登山で最も酷使される筋は、太ももの前面にある大腿四頭筋です。上りの場合、大腿四頭筋は縮みながら力を発揮し、身体を上に持ち上げています。下りの場合には、この筋が引き伸ばされながら力を発揮し、ブレーキをかけつつ身体を下に下ろしていきます。

前者は自然な筋力発揮の形なのに対し、後者は不自然な発揮様式なのです。前者を短縮性収縮、後者を伸張性収縮と呼びます。英語では、コンセントリック収縮、エキセントリック収縮と表現します。日本語でも英語でも、後者の表現は不自然さを表していることがわかるでしょう。

脚筋力の弱い人がこの伸張性収縮を行うと、筋細胞に損傷が起こります。自転車で坂道を下るとき、加速がつかないようにブレーキをかけますが、このときにブレーキのゴムがすり減っていくようなものです。筋が損傷すると筋力が低下して、体重を安定して支えられなくなり、脚がガクガクになります。それが高じると、最悪の場合には転んでしまうというわけです。

【図】上りと下りでの大腿四頭筋の使われ方の違い上りと下りでの大腿四頭筋の使われ方の違い (山本、2000)。矢印を入れた部分が大腿四頭筋

また筋細胞が損傷すると、その部分に炎症が起こり、それを筋肉痛として感じるのです。登山をすると筋肉痛になる人は、脚の筋力が弱いことを意味します。さらには、下りでの事故を起こしやすい状態にあるともいえるので、筋肉痛を甘く見てはならないのです。

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