天皇の陵墓も例外にあらず…! じつは、古墳は「単なる権力者の墓」ではなかった。周濠構造に秘められた「古代日本人の超技術」

あの時代になぜそんな技術が!?

ピラミッドやストーンヘンジに兵馬俑、三内丸山遺跡や五重塔に隠された、現代人もびっくりの「驚異のウルトラテクノロジー」はなぜ、どのように可能だったのか?

現代のハイテクを知り尽くす実験物理学者・志村史夫さん(ノースカロライナ州立大学終身教授)による、ブルーバックスを代表するロング&ベストセラー「現代科学で読み解く技術史ミステリー」シリーズの最新刊、『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』と『古代世界の超技術〈改訂新版〉』が同時刊行され、続々と増刷されています!

国内・海外のさまざまな遺跡を直接訪れ、そこに隠された「古代の超技術」を“自らの目”で探求してきた志村さんが、今春訪れたのが「やまのべのみち」です。

古の天皇の陵墓(古墳)をはじめ、さまざまな事跡・遺跡に次々と遭遇できる「やまのべのみち」は、日本の古代、すなわち『古事記』や『日本書紀』、『萬葉集』の時代を実際に体感できる最良の場所とも言われます。

後編では、「やまのべのみち」を歩くとわかる、古墳時代と現代の意外な結びつきが明らかにされます。

なんと、「古墳の上に建てられた住宅」がある!?

卑弥呼の墓

崇神天皇陵の手前の山辺道を右折すると、龍王山ハイキングコースに入る。

今回は山辺道を直進したが、ちょうど2年前の4月、山頂(586m)まで約5kmの古墳巡りを楽しんだ。少なからぬ横穴墓を探しながらの山登りハイキングである。いくつかの横穴墓には入ることができる。

山頂に達する頃にはかなりの汗をかくが、そこは箸墓(はしはか)古墳、大和三山の耳成山(みみなしやま)、畝傍山(うねびやま)、香具山(かぐやま)を眼下に、そして二上山(にじょうさん)、葛城山(かつらぎさん)を眺望できる絶景スポットである(写真6、図1)。

【写真】龍王山頂上(586m)からの眺望写真6 龍王山頂上(586m)からの眺望(撮影:柳澤万里枝)

眼下に横たわる箸墓古墳(写真6右下)は3世紀中期~末期、古墳時代の幕開けを告げる全長276m、高さ30mの巨大な方形部合体型円墳である。

宮内庁により、第7代孝霊(こうれい)天皇の皇女・倭迹迹日百襲姫(やまとととひももそひめ)の陵墓と治定されているが、近隣の纏向(まきむく)遺跡の規模や出土品などから、私は『魏志倭人伝』に登場する女王・卑弥呼の墓であろうという説に賛成したい。

【地図】 山の辺の道図1 山辺道(南ルート)

最大規模の「都市的集落」

考古学の調査・研究によれば、箸墓古墳の造営当時、纏向地域には国内最大規模の都市的性格をもった集落があったとされている。図3に示されるように、この地域は緩斜面を下る「河道」からの用水が豊富で、水田耕作に適した土地であった(参考図書2)。

【図】古墳時代前期の纏向地域復元図図3 古墳時代前期の纏向地域復元図(提供:田久保晃氏)

すでに述べたように、水田稲作にとって最も重要なのは、いうまでもなく、水の安定的確保であるが、天候に左右される「自然の水」に頼らないためには灌漑用水が必要である。

具体的には、溜池と灌漑用水路である。水田の広さは溜池の容積、つまり貯水量に比例するだろう。

稲の増産を可能にした土木技術

一般的には、図4(a)に示すように、水は川から用水路を経て水田に供給されるが、このままでは、水量は天候に依存する川の水量に頼らなければならない。

ところが、図4(b)に示すように、古墳周濠を「溜池」として利用すれば、水田への水の安定的供給が可能になる。

【図】古墳周濠を利用した用水供給システム図4 古墳周濠を利用した用水供給システム(田久保晃『水田と前方後円墳』[農文協プロダクション、2018]を参考に作成)

纏向の人々は、川に井堰(いせき)を設けて取水し、古墳周濠へと導水して、干ばつに備えて貯水した(参考図書2)。

古墳周濠の容積を大きくすればするほど開拓可能な水田の面積が増し、結果的に稲の収穫量が増す。古墳周濠の容積は、古墳の数と規模に比例する。実際、図3に示されるように、纏向地域には少なからぬ古墳が存在する。

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