あの人気シリーズが本になった!
「冷やすメカニズム」を根底から覆す冷蔵庫、意外な魚のおかげで完成した高温でも触れるレンガなど、なぜできたの? どうやって働くの? と、思わず頭をかしげてしまうようなびっくり発明の数々をご紹介してきた、本サイト人気連載「さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く」。
なんと、1世紀半近くにもわたって日本の産業支えてきた「産業技術総合研究所」の全面協力のもと、刊行された『「あっぱれ! 日本の新発明 世界を変えるイノベーション』から、おもしろ発明をご紹介しましょう。
今回は、プルシアンブルーという顔料に着目した新発明を解説します。なんと、環境汚染の原因とされる窒素化合物ですが、その化合物の一つアンモニアを、顔料で吸着・除去してしまおう、という、なんとも仰天の発明なのです。
*本記事は、『「あっぱれ! 日本の新発明 世界を変えるイノベーション』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
なぜアンモニアを除去しなければならないのか?
プルシアンブルーといえば、「安全地帯」である。知らない世代のために説明しておくと、「安全地帯」とは玉置浩二がボーカルを務めているバンドの名前で、『プルシアンブルーの肖像』というヒット曲がある。『ワインレッドの心』のほうが有名かもしれないが、レッドだけじゃなくブルーも売れたのだ。
なんでそんな話をしているかというと、そのプルシアンブルーが「高性能アンモニア吸着材」であることが発見されたと耳にしたからだ。なるほど、アンモニアは悪臭の原因だ。体にも悪そうな気がするから、それを吸着してくれれば、そこそこ安全な地帯になりそうだ。
だが、「特定の色が、ある物質を吸着する」と聞いても、ちょっと何のことだかわからない。真っ先に頭に浮かんだ疑問はコレだ。
「ふつうのブルーとかスカイブルーとかブルーバックスの表紙とかじゃダメなの?」
ブルーという色には、なんとなく清潔なイメージがある。そういえば、トイレに置くだけでよいあの芳香洗浄剤も「ブルー」だ。そう思うと、ブルーならばなんでもアンモニアを吸着しても不思議ではない気がしますよね。
しかし、その機能が発見されたのはただのブルーではなく、プルシアンブルーだというのである。なぜ、ほかのブルーではダメなのか?
そんな素朴な疑問にとりつかれた探検隊は、産総研のナノ材料研究部門に出向いた。高橋顕さんと川本徹さんに疑問をぶつけるためだ。
じつはPM2.5の半分をアンモニアが占める
「これが、プルシアンブルーという青色顔料です」
「18世紀初頭に発見されて、葛飾北斎やゴッホが使ったことでも知られていますよね。昔の青写真の一部にもプルシアンブルーの技術が使われていました。いまは絵の具として、ふつうに市販されています」
そう言って試料を見せてくれた高橋さんの言葉を聞きながら、隊員たちは大いなる勘違いに気づいた。プルシアンブルーは「色」の名前としか思っていなかったのだが(実際その意味で使うこともあるが)、その特徴的な色を生み出す「顔料」自体の名前でもある。ここで研究対象になっているのは後者なのだ。
ならば、ほかのブルーではダメなのも当然である。注目すべきは「色」ではなく、形や構造を持つ「物質」としてのプルシアンブルーなのだった。
そのプルシアンブルーが、なぜアンモニアを吸着するのか?
という話は後回しにして、そもそも、どうしてアンモニアを吸着したいのか、を聞いた。