ドイツサッカー連盟公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)をもち、フライブルガーFCでU-16監督やU-16/U-18総監督を務めるなど、ドイツでの選手育成・指導歴が20年を超えるサッカー指導者にしてジャーナリストの中野吉之伴氏。
スポーツをはじめ、海外での教育・育成のあり方や仕組みづくりに関心をもつ中野氏がいま注目しているのが、オランダだ。
オランダと日本の顕著な違いとして、自己肯定感の高低差が挙げられる。じつはオランダはユニセフによる「子どもの幸福度」ランキングで、調査開始以来の首位をキープし続けているのだ。
日本人はなぜ、自己肯定感が極度に低いのか? オランダ人はなぜ、世界でいちばん自己肯定感が高いのか?
現地で学校教育に携わる日本人が“秘密”を明かす。
「自己肯定感が高くない」国・ニッポン
国連が2023年3月に発表した「世界幸福度ランキング2023」において、日本の順位は47位だった。
「世界幸福度ランキング」とは、世界幸福度調査(World Happiness Report)による過去3年間の生活評価への調査結果をもとに、国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)によって発表されているものだ。
47位という結果以上に気になるのは、生活評価への詳細内容において《自己肯定感が高くない》という傾向が強い点だ。
さまざまな要因があるなかで、その1つに《学校生活から評価基準が他者軸で行われることが多い》というのがありそうだ。
日本の子どもたちは、自己評価をする機会が少ないまま、年を重ねていっていないか。自分で自分を見つめて、評価し、分析して、どんなことがしたくて、どう生きたくて、そのためには何をすべきなのか、といったことをじっくり考える時間が、果たしてどれくらいあるだろう。
自己肯定感をもって生きるためには、幼少期からの環境が欠かせない。ならば、実際に自己肯定感を“標準装備”している人が多い国々では、どんな取り組みがされているのか。
オランダ・ユトレヒトの現地小学校で体育教師をしている安井隆(35歳)に話を訊いた。
「周囲の目」を気にしない
「オランダの学校では、『周囲が自分をどう思うのか』よりも『自分がどう思うか』を大切にするようにと教えられています。また、実際にあらゆる場面で、自分で意思決定をする機会が小さな子どものころからひんぱんに設けられています。
同時に、他人の考えを大切にすることも重視しているので、意見を求められたときにはほぼみんなが手を挙げて、自分の意見を口にしようとする姿勢が備わっています」
安井の指摘する点はまさに、日本とは真逆の感覚がある。
「自分がどう思うのか」よりも、「周囲が自分をどう思うのか」を気にしてしまう傾向が日本では強いだろう。自分の意見よりも他人の意見。だから自分が「いいな」と思っても、まわりの人に「それは違うよ」と言われたら、「ああ、僕の/私の感覚は違うんだ」とすぐにへこんでしまったりする。
ユニセフの調査による子どもの幸福度ランキングで、オランダが調査開始以来、ずっと1位をキープしているのにはそうした背景がある。自己肯定感が高い人が多く、街を散策していても、せかせかしている人を見かけることはほとんどない。カフェやレストランでもほどよいのんびり感が漂っていて、とても心地いい。
名古屋で10年間、中学校の教師をしていた安井は、名古屋市教育委員会によるオランダ教育を学ぼうというプロジェクトメンバーに選ばれ、そこでオランダの教育システムに興味を抱いて4年前に移住を決意したという。
「それ以前から、オランダの教育に関する本や論文を読んでいたりはしていたんです。でも、現地の学校視察研修に参加して、実際に授業のようすをこの目で見たときに、『日本とは雰囲気から取り組み方まで全然違うぞ!』と衝撃を受けました。
この国で教師として働いて、もっともっと深掘りしたいと強く思ったんです。それが、移住の決め手となりました」
30歳を超えてから、安定した仕事をやめて海外に移住するのは並大抵のことではない。だが、安井に迷いはなかった。彼我の学校教育のあり方に、それほど大きな違いを感じていたからだ。