ドイツサッカー連盟公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)をもち、フライブルガーFCでU-16監督やU-16/U-18総監督を務めるなど、ドイツでの選手育成・指導歴が20年を超えるサッカー指導者にしてジャーナリストの中野吉之伴氏。
スポーツをはじめ、海外での教育・育成のあり方や仕組みづくりに関心をもつ中野氏がいま注目しているのが、オランダだ。
じつはオランダは、2021年に開催された東京オリンピックで過去最高のメダル数を記録した日本に比べ、約5倍ものメダル獲得率を誇るスポーツ大国なのだ。
人口1800万人弱と、決して大国とはいえないオランダのスポーツ界はなぜ好成績を生み出せているのか?
現地で体育教育に携わる日本人が“秘密”を明かす。
伸び盛りのスポーツ大国
オランダスポーツの「伸びしろ」がすごい。
昨今、オリンピックやワールドカップをはじめとする各種の国際大会で、これまで以上にさまざまな種目においてオランダ人選手やオランダチームが上位に顔を出す傾向が増えてきているという。
一例を挙げると、東京オリンピックにおけるメダル獲得率だ。
「獲得数」でトップ10に入ったのは、1位から順にアメリカ、中国、ロシア、イギリス、日本、オーストラリア、イタリア、ドイツ、オランダ、フランスの10ヵ国。
オランダは、獲得数こそ全体の9位だが、金メダルの獲得数に限ると世界7位に順位を上げる。さらに、人口100万人あたりのメダル獲得率では「2.12」という圧倒的に高い数字を計上している。人口100万人ごとに2枚強のメダルを獲得したということだ。
日本のこの数字は「0.46」。乱暴に言ってしまえば、オランダのほうが過去最高のメダル数を記録した日本より、約5倍もの効率的な数字を残していることになる。
人口1753万人のオランダから、なぜ次々にトップアスリートが育まれてくるのだろう?
その秘密はどこにあるのか?
オランダのユトレヒトにある現地小学校で体育教師を勤める安井隆(35歳)に話を訊いた。
4ヵ所の《遊び場所》
「世界レベルでの好成績の大事なベースになっているのが、オランダにおける体育の授業だと思っています。日々、そのことを現場で実感していますし、これからもっとオランダのスポーツ界は伸びていくんじゃないかと、僕は予想しています」
体育の授業のあり方で、それほど大きな差が生まれるものだろうか?ーーこちらの疑問に対し、「全然違います」と安井は柔らかい口調で説明してくれた。
「オランダにズヴォレという地域がありまして、そこに《カーロ》という体育教員養成大学があります。その大学の先生たちが考え出したシステムが、今の体育の授業のベースになっているんです。授業をおこなう場所に応じて、いくつかの《遊び場所》を準備します。そこを子どもたちが自由に自分で選んで遊んでもらったり、ローテーションで回していくというやり方です」
実際に授業風景を見学させてもらったことがある。校内の小さな体育館でおこなわれていた小学校低学年の授業だ。安井はそこに、4ヵ所の《遊び場所》を作っていた。