空が高くなり、ようやく爽やかな風が吹き始めました。「ラグビーの季節」の到来です。特に今年はWorld Cup! 胸が高鳴ります。
ラグビーは、15名ものプレイヤーが身体能力と脳ミソのすべてを「80分間ガチンコで出し切る」スポーツです。一時的に格下のチームが優勢でも、ノーサイドの時には「なるように(実力通りに)なってしまう」、つまり番狂わせがめったに起きない、と言われています。
そんな、マウンティングの順位が支配した世界にあって、2015年のWorld Cup、弱小地域代表と言わざるを得ないジャパンが王国南アフリカを下した(しかもラストワンプレーで!)ことは、まさに天変地異でした。
しかしこれも「必然」と捉えるならば、その運命が開かれたのは、当時ヘッドコーチに就任したエディ・ジョーンズ氏が「日本人は体力でガイジンに勝てないって? なんでそんな前提に立つねん! パワーとスタミナで対等以上になって初めて、ジャパンが得意なスピードとか小技が活きるんちゃいますか!(目下勉強中の大阪弁含め、発言は私の推測です・・・)」と、正攻法の強化方針を決めた瞬間なのだと思います。
その実現のために、選手には言語を絶するハードトレーニングが課されたようですが……。
さて、高校・大学と楕円球を追っていた私は、ハシクレながら、何事も「ラグビーにこじつけて」考えるクセがついてしまっています。
例えば、がんに対する外科治療も、「敵は中央突破(浸潤)と飛び道具(転移)を織り交ぜて攻撃してくるし、対する外科医もゴリゴリのパワープレーで本陣に切り込んだり、あるいは腹腔鏡やロボットなどの小技(低侵襲手術、という意味です。決して軽視しているわけではありません!)を駆使して効率的に得点したり……。
そもそも化学療法や患者自身の免疫力・治癒力とスクラムを組んで根治を目指すところなんて、まさにラグビー的だな」と感じます。
今回は、私たちの多彩な治療戦略の中から、最も外科医のパワー(胆力、体力、技術力)を必要とする「大きな開腹(開胸)手術」に注目して、患者さんと一緒に「進行がん」にチャレンジした記録を紐解いてみます。
なお、今回紹介する内容は実例に基づいていますが、趣旨に影響がない範囲で数値や図を修正しています。また、進行がんの治療に「大きな手術」が常に役に立つわけではない(残念ながら、ここで紹介するのはむしろ数少ない成功例だと言える)こともあらかじめ明記しておきます。
今でも活躍する、「幕内切開」という長大な手術アプローチ
お腹の手術で「最も大きな切開」と言えば、東京大学 幕内雅敏先生の名前を冠した「幕内切開(図1)」がまず思い浮かびます。何しろ、お腹をタテ・ヨコに切った後、肋骨の間に入って胸まで開けてしまうのですから……。この方法で肝臓にアプローチすると、普通は奥深い闇の中にある血管の根元まで術者の真下に捉えることができるので、手術の安全が担保されます。
一方、従来から「やりすぎ」という批判がありました。特に、腹腔鏡やロボットをメインに行う最近の外科医にとっては「見たこともない」古典技能かもしれません。しかし私は、肝臓外科医たるもの、皆「幕内切開」をマスターすべきだと今でも信じています。技術的には全く難しい操作ではなく、患者さんと、時には自分を助けることができるからです。例えばーー