地球が誕生して46億年。生命が誕生したのが約38億年前あたりといわれています。それ以降、生物は何度も大量絶滅を繰り返してきましたが、なかでも約2億5000万年前には、地球史上最大の大量絶滅が起こったとされています。
生物を大量絶滅に追いやったものは、いったい何でしょうか。そもそも、何を調べれば当時の生物のことがわかるのでしょうか。
そうした生物史の大きな謎を解くために、東北の山の中をひたすら歩いている地質学者がいるらしい──。地質学者なのに、なぜ生物の研究を? なぜ東北の山?
不思議に思った探検隊は、そのご当人、産業技術総合研究所・地質調査総合センター・地質情報研究部門・層序構造地質研究グループの武藤俊さんを訪ねました。
2億年以上も前のことが「付加体」を見ればわかる
武藤さん、これまで探検隊が訪ねてきた研究者たちのなかでも飛び抜けて若い。
「産総研に入って4年になります。その前は、東京大学大学院で、日本のジュラ紀につくられた付加体(ふかたい)の研究をしていました。付加体とは、海洋プレートが水平移動してきて大陸プレートの下に沈み込むとき、海洋プレートの堆積物が削り取られて大陸プレートの端にくっついたものです」
日本列島の下では何枚ものプレートがひしめいている。海洋プレートである太平洋プレートは、年に8cmほどのペースで太平洋を水平移動してきて、大陸プレートである北アメリカプレートやユーラシアプレートに日本海溝あたりでぶつかり、沈み込んでいる。それが2011年の東北地方太平洋沖地震のような巨大地震を起こす原因にもなっているのだが、このときに、カンナで削られるように大陸側に削りカスを残していく。これが付加体だ。
「付加体によって、深海の堆積岩が日本列島の端に残されます。ジュラ紀の付加体は北海道の道南あたりから南は琉球まで、日本列島の基盤のかなりを占めているんです。2億年以上前の太平洋の深海に堆積した古い地層から、生物の死骸などを見つけ出して、当時の生物や地球環境を知るための研究をしていました」
付加体の厚みは、思ったよりある。陸地に近づいたときに堆積した泥や砂も含めて、1km弱。チャートなどの深海堆積層だけで200mだという。そんなに厚いのかと思ったら、武藤さんはむしろ薄いと感じているそうだ。2億年という時間をかけて積もったにしては薄い、ということらしい。そうした日本の付加体の中に、2億5200万年前の史上最大といわれる大量絶滅の時代の地層も含まれている。
「たとえば、前期三畳紀と呼ばれる時代(現在から約2億5190万年前~約2億4720万年前)の深海の地層が、岩手県の北上山地や、愛知県と岐阜県の県境あたり、大分県の津久見あたりの付加体で見られます。そのなかで、愛知や津久見の付加体は、昔の太平洋の南半球で堆積したものと推定されています」
太平洋の南半球? そんなに遠くから来たのですか?
「少なくとも赤道あたりの南洋から、海洋プレートの動きに合わせて、2億年以上をかけてやってきました。しかし岩手の北上山地の付加体は、どのあたりのものか推定ができていません。そこでいま、産総研の業務として、この一帯の地質図をつくりながら、付加体を調査しているのです」