「レンガ」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか……?
多くの人は、東京駅などの赤茶けた風情のある建築物や、焼き釜のようなものを想像するでしょう。もちろん、それもレンガ。耐火性と建物を支える強度を備えた“焼き物”です。
このありふれたレンガを、最先端の断熱材として研究している人がいる──。断熱とレンガ!? いったいどういうこと……?
この情報を元に、探検隊が今回向かった先は、瀬戸焼や常滑(とこなめ)焼などの陶器でも有名な愛知県。名古屋市にある産業技術総合研究所・中部センターを訪ね、マルチマテリアル研究部門 セラミック組織制御グループ 研究グループ長の福島学さんに話を聞いてみました。
エネルギーロスの代名詞
焼き物の町でレンガ研究……、いったいどういうことでしょうか?
レンガは、メソポタミア文明の頃から建材として長く使われているもので、耐火性能を買われて、日本でも明治以降に広まりました。そのレンガが断熱材であるというイメージはもっていなかったのですが。
「鉄鋼業やセメントなど、炉を使って加熱をする工業製品をつくる炉の中には、熱エネルギーを外に逃がさないために、レンガが使われています。あるいは、ゴミ焼却炉などでも同じです。ところが、このとき熱エネルギーの98~99%は捨てられているのです」(福島学さん。以下同)
えっ! そんなにムダになっているんですか?
「セメントやガラスなど、炉で焼いて製品化する工業は『窯業(ようぎょう)・土石産業』と分類されますが、この分野で製品化されるものは、金額ベースでいえば全生産業のなかで3%程度にすぎません。ところが、そのために使うエネルギーは7%もかかっているのです。
そのぶん、熱エネルギーを捨てているのと同時に二酸化炭素(CO₂)も排出している。現実の問題としては、燃料費がその捨てている熱エネルギーに対してもかかっているわけですから、大きな問題を抱えているのです」
ゴミ焼却炉の近くに温水プールがある理由
よくゴミの焼却炉の近くに、廃熱を利用した温水プールが設けられているのは、捨てている熱エネルギーが大量にあるからなんですね。いくらかでも再利用している、という理解で合っていますか。
「そのとおりです。炉を加熱してゴミを燃やすにしても、熱エネルギーを使って温めているのは、じつは炉の中に敷き詰められた断熱材ということになります。その熱を再利用して温水プールが温められる。元になる断熱材が熱を遮断してくれれば、炉の中で使われる熱エネルギーは効率よく使われる。つまり、燃料費も下がるし、CO₂の排出もそのぶん減らせます」
効率的な断熱のポイントとなるのはなんでしょうか。
「空気です。いかに空気をレンガの中に含ませるか」
えっ? 空気ですか!?