停電した真っ暗闇の中でもオペを遂行する、天才外科医ブラックジャック。残念ながら現実の世界では、手探りだけで手術するのは不可能なようです。むしろ、外科医が最も欲しいのが「光」。医療をめぐる技術の進歩は、まさに光を求めてきた、という側面もありました。そして今、患部そのものが光るという「術中蛍光イメージング」が実現され、がん治療は大きく変わろうとしています。
臓器よ、光ってくれ!
生体発光する生物はよく知られています。ノーベル賞の題材になったクラゲは有名人? ですね。その他、別の連載でも紹介されているホタルイカ、キノコなど。自然界では、派手に光ると捕食される危険が増えてしまうと思うのですが、なぜ彼らはそんなに自己主張するのでしょうか……?
外科医の立場から言うと、人間の血管や臓器こそ「派手に光ってほしい!」と思います。体内の組織は解剖の教科書のようにはっきり色分けされているわけではなく、手術とはこれらの構造を掘り出して「これ何?」、「切って大丈夫?」と判断する作業の連続だからです。手術中にがんを見つけることも、おそらく読者の皆さんが想像しているよりも何倍も困難です。
もし、がんが潜伏している場所を「かぐや姫がいる竹」のようにピカピカと光らせることができれば、外科医は今よりもっと早く相手を探し出し、最適なラインで病巣を切除することができるようになるでしょう。
実は、この「手術中に生体構造を光らせる技術(蛍光ガイド手術)」は、おとぎ話でも、実験室だけのテーマでもありません。今や世界中で、頭のてっぺんからつま先まで、あらゆる手術の現場で活用されつつあるのです。
外科医は「光」を求めている
手術には「光」が必要。天才外科医ブラック・ジャックは停電でも手探りでオペをやり遂げたけど、彼は特別です。例えば、20世紀初頭に開設されたバルセロナのサン・パウ病院を見てみましょう。
この頃の病院建築の特徴だそうですが、外光がふんだんに入る「ガーデンテラス」のような場所に手術室が置かれています(写真「サン・パウ病院の手術室」)。照明設備が不十分な時代、よく見えることは、よい手術に直結した(=見えなければ何もできない!)ことでしょう。
現代の手術室には無影灯が設置され、LED化のおかげで明るさと取り回しが格段に向上しましたが、それでもなお多くの外科医が登山者のようなヘッドランプを装着し、術野をつまびらかに照らす「光」を必要としています。
これからお話しする「蛍光ガイド手術」は、「光」のさらなる応用であるという点で、手術の成り立ちに沿った進化だと言えるでしょう。この最新の手術では、患者さんの体内でがん組織や血管、臓器が発する「蛍光」で「肉眼では見えにくいもの、あるいは見えないもの」を可視化し、安全性と確実性を向上させるために役立てます。”See more, do more”-医療用の蛍光観察装置を販売する海外メーカーのキャッチコピーはまさにいい得て妙であり、私自身、この蛍光イメージングの効果を毎日手術室で実感しています。
蛍光ガイド手術は今や世界中に広まりつつありますが、その発展に日本の外科医・研究者が大きな役割を果たしてきたことも付け加えておきます。