現役外科医が語る、『ドクターX〜大門未知子』への違和感……「私、失敗するので」
米倉涼子さん主演のヒットドラマ『ドクターX〜大門未知子』。「私、失敗しないので!」という痛快な決めゼリフが有名ですが、現役の外科医からすると、ちょっと抵抗を感じるそうです。はたしてその理由はいかに?
手術直後に「手術は成功ですか?」と言われても困る
消化器外科医である筆者は、せめて家の中では手術室から逃避したいので、医療ドラマはなるべく観ない主義です。しかし妻は、私と一緒にドラマを観るのが楽しみなようで…、『ドクターX〜外科医・大門未知子』は半ば強制的に視聴させられていました。
なるほど、手術をする米倉涼子さん、麻酔をかける内田有紀さんの所作が素晴らしく、時に現実離れしたストーリーにリアリティーを与えています。
しかし……、「私、失敗しないので!」という決めゼリフはどうなんでしょうか? このドラマが大ヒットしたせいかは分かりませんが、現実世界で手術を終え、患者さんのご家族に内容を説明すると、「それで、手術は成功ですか?」と聞かれることがなんと多いことか。実際に手術が問題なく終わっても、「成功か、失敗か」と直後に迫られると、ちょっと言葉に詰まってしまいます。なぜかというと―
手術に成功/失敗ってあるのだろうか?
手術の成功、失敗ってなんだろう? これを機会に考えてみることにします。
手術中の偶発的な症状で「失敗」は起こるか?
失敗のほうが考えやすいですね。
明らかな失敗は「左右取り違え」に代表される、医療過誤の範疇に入るものです。これは重大なミスですが、まさか大門未知子が滅多にない「事件」を指して「私、失敗しない!」と大見得を切っているわけではないでしょう。ですから、今回は触れません。
彼女が意識しているのは、第一に手術中の偶発症(突発的な出血など)なのだと思われます。次は、手術後の合併症(熟練した外科医が通常通りの手術をしても、ある確率で起こり得るトラブル)でしょう。実際、一見順調だった手術後の容態が急変し、迅速な処置や再手術で「失敗」を回避する、というシーンがあったと記憶しています。
これらの偶発症や合併症はリカバリー可能であり、決して医療ミスではありません。しかし、ドラマで強調されているような「成功と失敗」が手術にあるとすれば、それは治療のタイミングごとに判断すべきだと言えるでしょう。
では、読者の皆さんがまずイメージする「手術の失敗」とは、どんなものでしょうか?