2021.08.28

【問題】あなたは「ベン図」で4つの集合を表せますか?

集合の意外と知らない不思議な雑学数学

ものの分類をするために使える発想でもある「集合」。今回は、数学においても重要な役割を果たす「集合」に関連した雑学数学を紹介しましょう。

色々な形のベン図

 集合の単元で出てくる「ベン図」、名前はピンとこなくても形を見れば思い出す人もいるのではないでしょうか。ベン図とはこのような図のことです。

図1

数学好きにはおなじみの、集合について直感的に理解することができる表現手法ですね。名前の由来はイギリスの数学者ジョン・ベン (John Venn)によるもので、彼が考え出した表現手法とされています。

 上のベン図で基本をおさらいします。ある集合Aをたとえば「2の倍数」とし、集合Bを「3の倍数」としたとき、Aによって囲まれたところには「2の倍数」が含まれ、Bによって囲まれたところには「3の倍数」が含まれます。そして2つの円が重なった色が濃くなった領域には「2の倍数かつ3の倍数」、つまり「6の倍数」が含まれることになります。そしてAにもBにも囲まれていないところには「2の倍数でも3の倍数でもない数」が含まれることになるわけです。

 ではこのベン図、集合の数を増やしていくと不思議なことが起きるので、今回はその現象を紹介していくことにしましょう。

 まず、3つの集合を考えてベン図を作ると以下のようになります。

図2

 このように、先ほどの集合A、Bに加えて集合Cを考えます。集合Cを「5の倍数」とすると、中心でちょうど3つの集合が重なり合っているところは「30の倍数」ということになります。ここで、他の囲まれた領域がそれぞれどんな集合になっているかを考えると、以下のように書けます。

図3

 これを見ると3つの集合を考えることで、8つの数の分類がなされていることが分かります。これは、2の3乗=8というカラクリになっていて、”それぞれの集合の条件に「当てはまるか」「当てはまらないか」の2通りを3つの集合で考える”ことに相当するので、こうした数字が出てくることになります。

 さて、長かったですがここからが本題です。次に4つ目の集合を考えると、ベン図はどうなるのでしょうか? 同じように描いてみると、以下のような図になります。

図4

しかしこの図、実はよく見るとおかしなところがあります。どこがおかしいのか、分かるでしょうか?

 3つの集合のベン図で確かめたように、4つの集合のベン図でも、いくつの領域に分けられるのかを計算してみましょう。

 分けられる領域の数は、2の4乗=16なので、16個に分かれていれば問題なさそうに見えます。では数えてみましょう。

図5

なんと2つ少ない、14個です。これはどういうことでしょうか?

実はこれは、このベン図だと表しきれてない領域があるのです。何が足りないのか? そして、どうすれば16個を表すことができるのでしょうか。

 タネ明かしをすると、足りない2つは対角線上にある集合同士のみを満たす集合です。図でいうと、AかつD、BかつCを満たすものが表せていないということなのです。

図6

実は、4つの集合のベン図を過不足なく表すときには、円で表すことができません。しかし円ではなく楕円にするなど、少し形を変えることで解決できます。以下のようになります。

図7

これ以上の数の集合をベン図で表す場合、5つまでは楕円の組み合わせで可能です。ただ、それ以上となると楕円よりも入り組んだ図形を使わなければいけないのですが、ここでは割愛しておきます。

集合の発想をつかって矛盾を作る方法

 さて、続いてもう1つ、集合の雑学数学をご紹介。パラドックスと呼ばれる、不思議な現象が起きるものを紹介します。たとえば、このような張り紙があったとき、あなたはどんなことを思いますか?

図9

この「貼り紙自体」が貼り紙となっているため、すでに貼り紙が貼られている状態になってしまっていますね。ですのでこの貼り紙の主張をそのまま受け入れるとしたら、この貼り紙自体をはがさないといけません。

 同じような話で、

「ある村では床屋が男性1人しかおらず、その男性は自分で髭を剃らない人全員の髭を剃り、それ以外の人の髭は剃らない」というルールを持っていたとします。このとき、この床屋の男性は自分の髭を剃るのか剃らないのか、という問題が生じてしまいます。自分の髭を自分で剃らない村人に対しては、この床屋が髭を剃っていきます。床屋自身が自分の髭を剃らないとしたら、この男性自身も「自分で髭を剃らない村人」に該当しますが、いざ剃ろうとすると「自分で自分の髭を剃る村人」になっていまい、「自分で髭を剃らない村人」ではなくなってしまうので、この床屋はやはり自分の髭を剃らないことになります。しかしそうなるとまた、「自分で髭を剃らない村人」に該当することになるため、同じことの繰り返しになっていってしまうのです。

 このような現象は「ラッセルのパラドックス」と呼ばれ、このパラドックスを解消する一つの方法として、「集合の取り方を工夫する」というものが知られています。

 たとえば貼り紙の話では、「この貼り紙以外の貼り紙は貼ってはいけない」とすれば良いのです。集合の発想で考えると、「すべての貼り紙」という集合から「この貼り紙を除いた集合で考えている」ということになります。非常にシンプルな解決策ですが、同時に非常に有効な方法です。床屋の話の場合も床屋自身以外にルールを適用すればよいので、「ある村に床屋が男性1人しかおらず、その男性は自分で髭を剃らない人全員の髭を剃り、それ以外の人の髭は剃らない」というルールから自分自身を除き、

「ある村に床屋が男性1人しかおらず、その男性は自身を除いた自分で髭を剃らない人全員の髭を剃り、それ以外の人の髭は剃らない」

とすれば解決となります。

 今回は、日常的な話を例に矛盾の解消方法をご紹介しましたが、数学的な発想でこのように矛盾が生まれるものをうまく取り除いて考えることで、成立するお話もあることが分かりました。 

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