『新世紀エヴァンゲリオン』TV版から25年、ついに最終作の『シン・エヴァンゲリオン劇場版: ||』が公開されました! エヴァと言えば、物議を醸しだす凄惨な心理描写と共に、難解な科学用語がサラッと登場することでも有名です。
この記事は、過去のエヴァ作品のプチ科学ネタを3回に分けて紹介する記事の第2回です。マニアック度(?)をシンクロ率になぞらえて、前回はシンクロ率10%の「ゼーレとピタゴラスの定理」から、シンクロ率30%の「ラミエルは4次元立方体の3次元空間への投影」までの数学に関連する話題を紹介してきました。
今回は、さらにシンクロ率を高めて物理学に関するネタを解説していきます。
【シンクロ率40%】
ロンギヌスの槍は「第1宇宙速度」を余裕で超えていた
ここからは、物理の領域に突入します。
『TV版』の第22話で登場する第15使徒「アラエル」。翼を広げたまま漂う巨大な光る鳥のような姿をしています。しかし、「アラエル」にはこれまで登場した使徒とは一線を画する大きな特徴がありました。なんと、宇宙空間に常駐しながら精神攻撃を仕掛けてきたのです。これでは地上戦を前提としたエヴァには手も足も出ません。
そこで白羽の矢が立った究極兵器、それがロンギヌスの槍です。綾波レイが搭乗する零号機が地上からロンギヌスの槍を一投すると、あっという間に宇宙空間に到達し、「アラエル」を一撃で殲滅します。一件落着……ですが、問題はここからです。
冬月副指令「ロンギヌスの槍は!?」
日向マコト「第一宇宙速度を突破、現在、月軌道に移行しています」
なんと、勢い余って大切なロンギヌスの槍が月まで飛んで行ってしまったのです。
さて、ここで登場する「第一宇宙速度」とはいったい何でしょうか?
「第一宇宙速度」とは地球の周りをギリギリ周回している国際宇宙ステーションのような人工衛星の速度です。これより遅いと地上に落下し、これより速いと地球から少し離れます。具体的には秒速7.9km、約マッハ23というスピードです。
さらに速い「第二宇宙速度」は地球の重力を振り切って二度と戻ってこない惑星探査機などの速度です。具体的には秒速11.2km、約マッハ33という猛烈なスピードです。
ロンギヌスの槍は月まで届きましたが、実は地球から月までの距離は地球30個分と意外と遠く、地球から月まで行くのに必要な速度は「第二宇宙速度」とあまり変わりません。ロンギヌスの槍が「第一宇宙速度」を突破したというセリフは正しいのですが、むしろ「第二宇宙速度」に肉薄していたのです。
これにはさすがの「アラエル」も聞いてないよと思うかもしれません。もっとも、碇シンジの搭乗する初号機の覚醒に呼応して未知の力で月から地球に帰還したロンギヌスの槍、既存の物理法則では説明できないのかもしれません……。