「時を刻む」とはどういうことか?
コロナ禍に明け暮れた今年も、いよいよ残りあとわずか。
年越しの風物詩といえば、日本では除夜の鐘、世界ではニューイヤーのカウントダウンだろう。コロナ禍の影響から自宅で迎える人が多い2020年の年末も、例年と同じでこの時間はやってくる。
ところで、世界中が新年を祝うための"この時計"は、いったい誰が合わせているのだろう? そして「どこの時計」に合わせているのだろう?
この地球上に住むすべての人たちが、(時差があるとはいえ)一度に同じ時間を共有できるのはなぜなのか?
ブルーバックス探検隊は今回、そんな「時間」の疑問を抱えながら、産業技術総合研究所の計量標準総合センターを訪ねた。ここは、「光格子時計」という最先端の時計を、世界で最も安定した運用に成功させたばかり。
「時を刻む」とは、いったいどういうことなのか? ──時間標準研究グループ主任研究員の小林拓実さんと赤松大輔さんに訊ねた。お二人ともに、物理学の若き研究者だ。
標準時をチェックするための時計
基準となる時計は、どこにあるのでしょう?
「私たちが日常的に使う時計は、各国の標準時によって定められています。それぞれの国ごとに時を刻む時計があり、日本でも水素メーザー原子時計が動いています」(小林さん)
あれっ? 光格子時計ではないのですか!?
「光格子時計は、次世代の標準時をチェックするために現在開発中の時計で、まだ研究室のなかで動かしている状態です。
みなさんがお使いになっている腕時計も、そのまま放置しておけば、徐々に時間が狂ってきます。その狂いを修正するために、日本の標準時が存在します。
ところが、その標準時をつくる水素メーザー原子時計も、厳密にいえば少しずつ狂いが生じてきます。したがって、その狂いをチェックする時計が必要となります。現在はその役割を、セシウム原子時計が担っています。
光格子時計は、セシウム原子時計より正確な時計として、『秒』の再定義をするために、各国が競って開発している状況にあるのです」(小林さん)