私自身を含めた市井の恐竜ファンは、なぜ恐竜が好きなのか。理由はいろいろあるとは思うが、多くの人にとって納得感を覚えるのは、問答無用で「でかい」ことだろう。もちろん恐竜のなかにはニワトリくらいの大きさの種もいるが、やはり「でかい」恐竜に魅力を感じる人は多い。なかでも、多くの種が現生動物であるゾウやサイよりも巨大な身体を持っている竜脚類の人気は高い。
近年中国で発見された竜脚類には「〇〇ティタン」という学名を持つ種がいくつかいる。「ティタン」とはもともと、ギリシャ神話に登場する巨人族を指す言葉で、恐竜の学名として用いられるときは白亜紀に繁栄した竜脚類ティタノサウルスの仲間(Titanosauria)に名付けられることが多い。今回はそんな、中国で見つかった巨人恐竜たちを特集してみよう。
「黄河の巨人」姿をあらわす
中国を代表する竜脚類は、長年にわたってマメンチサウルス(馬門溪龍:Mamenchisaurus)が広く知られてきたが、近年は徐々にフアンヘティタン(黄河巨龍:Huanghetitan)に置き換わりつつある。黄河の巨人、という、いかにも中国恐竜界を背負って立つような名前の恐竜だ。
シルクロードの入り口である甘粛省蘭州市の西方、チベット高原と接する劉家峡鎮では、1999年に恐竜の足跡群が発見され、さらに2003年には巨大な歯を持つ白亜紀初期の鳥脚類ランジョウサウルス・マグニデンス(巨歯蘭州龍:Lanzhousaurus magnidens)の部分的な化石が見つかるなど、恐竜化石の産地として徐々に注目されるようになっていた。
ランジョウサウルスと同じく2003年ごろに劉家峡鎮で化石が見つかり、足掛け3年をかけての発掘がおこなわれた末に、中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の尤海鲁(Yóu Hǎi lǔ)らによって報告された竜脚類が、フアンヘティタン・リュジャシャエンシス(劉家峡黄河巨龍:Huanghetitan liujiaxiaensis、以下略称で表記)である。
どっしり恐竜
H・リュジャシャエンシスは白亜紀前期に生息した原始的なティタノサウルス類で、巨大な臀部を持っており、報告当初は中国有数のデブ恐竜として話題となった。
発見された化石は、ほぼ完全な1.1mの長さの仙骨と1.23mの左肩甲骨のほか、断片的な2つの尾椎や肋骨の破片などだった。
H・リュジャシャエンシスの全長は推定18〜20m程度とみられた。これは、たとえば体長30m以上だったとみられるマメンチサウルスと比較すれば短いように思えるのだが、ほっそりした体型のマメンチサウルスと比較して、寸詰まりで「横」に大きかったと見られ、やはり中国国内で発見されたなかでは最大級の体格を持つ恐竜だったとみてよかった。
汝陽産「黄河の巨人」をめぐるドタバタ
なお、上記でフアンヘティタンについてわざわざ種小名まで書いたのは、2007年に河南省汝陽県で、これと同属とされるフアンへティタン・ルヤンゲンシス(汝陽黄河巨龍:Huanghetitan ruyangensis)が見つかったからだ。
汝陽県の恐竜発掘事情については本連載の過去記事でも書いた通りである。このH・ルヤンゲンシスは2.93mもの長大な肋骨が見つかり、やはり非常に「横」に大きな恐竜だったとみられた。また、体長も推定32mに達し、まさに「黄河の巨人」の名に恥じない竜脚類だった。
もっとも、近年の研究ではどうやらH・リュジャシャエンシスとH・ルヤンゲンシスはそもそも別属であったとみられている。フアンヘティタンの模式種は、先に見つかった推定体長18〜20mのH・リュジャシャエンシスのほうであり、「黄河の巨人」の名を持つ恐竜の事情はちょっとややこしいことになっている。