本連載ではこれまで、中国で出土したさまざまな恐竜に言及してきた。おそらく最も多いのは、羽毛恐竜シノサウロプテリクスの発見以来、ここ四半世紀にわたって中国恐竜の新たな代表選手として存在感を発揮している獣脚類(特にコエルロサウルス類)に関するエピソードだろう。
また、過去には竜脚類やハドロサウルス類、剣竜類も紹介したことがある。恐竜ではないが、翼竜や海生爬虫類についても記事にしたことがあった。曲竜類(いわゆる「ヨロイ竜」)についての言及は少ないが、それでも河南省汝陽県で発見されたゾンギュアンサウルス・ルオヤンゲンシス(洛陽中原龍:Zhongyuansaurus luoyangensis)に軽く触れたことがあった。
しかし、本連載ではなんと、これまで角竜類についての記事がほとんどない。あえて言えば、新疆ウイグル自治区で化石が見つかった非常に原始的なジュラ紀の角竜類インロン・ドウンシ(当氏隐龍:Yinlong downsi)について名前だけ言及したが、それだけなのである。
「角竜らしい」角竜が少ない中国
とはいえ、これは必ずしも私が角竜類についての調べ物をサボっていることだけが理由ではない。中国ではインロンやプシッタコサウルス、アーケオケラトプス(古角龍:Archaeoceratops)、リャオケラトプス(遼寧角龍:Liaoceratops)といった原始的な角竜類はかなり見つかっているのだが、もっと発達した種は最近までほとんど見つかっていなかったのだ。
言い換えれば、トリケラトプスのように大きな角と発達したフリルを持つ、いかにも「角竜らしい」姿の種は、ユーラシア大陸でながらく見つかってこなかった。しかし、最近10年でこうした常識は塗り替えられるようになっている。
そこで今回紹介するのがシノケラトプス・ズケンゲンシス(諸城中国角龍:Sinoceratops zhuchengensis)だ。これは山東省諸城市の白亜紀後期の地層から頭骨の化石が見つかり、2010年に報告された、まだ世に出て間もない角竜である。
シノケラトプスは直径180センチ以上、幅105センチと非常に巨大な頭骨を持ち、さらに長さ30センチ以上の太い角が生えていた。また、後頭部にも湾曲した角が10本以上あったとみられている。全長はおそらく5~7メートルくらいだった。
「中国龍王」道をひらく
もともと、諸城市で恐竜の化石がよく発見されていたのは、龍骨澗という村の郊外だった。過去の記事からもわかるように、龍骨(lóng gǔ)とは伝統的な中国医学のなかで生薬に数えられてきた古い骨のことだ。前近代から化石が出ていたことが想像できる地名である。
この龍骨澗では1964年にハドロサウルス類の大腿骨が見つかり、それが1973年に中国地質博物館の胡承志(Hu Chengzhi)によってシャントゥンゴサウルス・ギガンテウス(巨型山東龍:Shantungosaurus giganteus)の名で報告されていた。
さらに1988年からは「中国龍王」の異名を持つ中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の趙喜進(Zhao Xijin、この記事も参照)が大規模な発掘プロジェクトを指揮して化石多数を発見。さらに趙喜進は2008年から開始された発掘プロジェクトにも、老身ながら加わっている。