「は? ペンローズ?」
ノーベル賞ウィークである。
私の場合、毎年、10月初めの週は自宅待機と相場が決まっている。日本人科学者がノーベル賞を受賞した際には、テレビや新聞や週刊誌から、ひっきりなしに問い合わせが来る……なぜなら、職業がサイエンス作家だからだ。
さて、10月6日も、いつもと同じように自宅で待機……してはいなかった。娘が所属するアウトドア学童クラブの荷物運びで、近くの公園にいた。夜の7時近くになり、私は公園のベンチに座ってスマホの画面に見入っていた。
日本人受賞者、出るかなぁ。量子コンピュータは少し早いし、光格子時計もあと5年くらいかな。だとしたら、そろそろカーボンナノチューブが来てもいいのではないか?
日本人受賞者の人となりをしゃべる準備をしていたら、私の耳に聞き慣れた物理学者の名前が飛び込んできた。
は? ペンローズ?
え? いま、ペンローズって言ったよな。空耳じゃないよな?
画面を凝視していると、ペンローズの似顔絵が現れた。に、似てねぇ……ごめん、イラストレーターさん。でも、ペンローズは、もっとハンサムだぜ?
デビュー作で「ペンローズ」を書いた理由
てなわけで、物理学賞に関してはテレビ出演で日本人受賞者の解説をする仕事はなくなったが、妙に嬉しいニュースである。なぜなら、私の実質的なサイエンス作家デビュー作は、何を隠そう『ペンローズのねじれた四次元』(講談社ブルーバックス)なのだから。
つまり、私はペンローズの熱狂的なファンであり、だから、ブルーバックスの最初の作品の主役にペンローズを選んだのだ。
ペンローズ受賞の知らせに酔いしれていると、親友の茂木健一郎から電話が来た。
「おい、ペンローズが受賞したってよ。驚いたな」
私をブルーバックス編集部に引き合わせてくれたのは茂木健一郎であり、ゆえに、『ペンローズのねじれた四次元』のプロローグには、茂木健一郎とペンローズの逸話が出てくる(半分、創作ですが)。
そして早速、ブルーバックス編集部から解説原稿の依頼が来たので、受賞発表当日に、この原稿を書いているような次第。