「琥珀恐竜」をめぐる論争について、当事者が国境を超えた取材依頼に応じた。安田峰俊氏が緊急全訳し紹介する。
相次ぐ大発見はなぜ批判を浴びたのか
中国地質大学副教授の邢立達(Xing Lida)は、2016年にミャンマー東北部産の琥珀のなかから約9900万年前の白亜紀前期の恐竜の尾を発見したと報告し、世界的な注目を集めた若手研究者だ。
邢立達はその後も、同地で発見された琥珀のなかに含まれた、恐竜(小鳥類)の頭部やヘビ・カエル・カタツムリなど貴重な標本の数々を報告。
きらめく琥珀のなかに、生前の姿を保ったまま封入された古代生物の姿はロマンチックかつ華やかで「記事映え」することもあって、彼の一連の発見は欧米圏を中心に評判となってきた。
だが、採掘地付近がミャンマー中央軍とカチン族ゲリラの紛争地であること。標本の入手にあたって現地業者からの「購入」という形を取る点が、非人道的行為をおこなっているミャンマー軍の資金源になりかねないこと。採掘された標本が中国国内の非公式的な博物館に所蔵され、国外の研究者からのアクセスが容易ではないこと──。
などを理由として、近年は欧米圏の学術誌や一般メディアから批判が噴出するようにもなっている。
決定的なのは、今年4月にアメリカの権威ある学術団体・SVP(脊椎動物古生物学協会)がこれらの問題を非難するレターを発表し、標本入手にあたっての倫理的問題を批判するようになったことだ。
渦中の恐竜博士、本誌に書簡を送る
これらの経緯については、本連載の前回記事「世紀の大発見「ミャンマー琥珀恐竜」の研究が大ピンチに陥った事情」で詳しく紹介した。
渦中の人である邢立達は、私と同じ1982年生まれで、大学では文系だったのに恐竜オタクが高じてカナダに留学して、世界的発見を成し遂げたというロマンあふれる経歴の持ち主だ。
前回、問題を報じるにあたって邢立達本人に見解を尋ねたところ、半月ほど経ってから非常にしっかりした長文の回答書簡が送られてきた。彼の見解にすべて賛同するかはさておき、この問題に対する中国側の当事者の認識を正確に伝えることには意味があるだろう。
本文は中国語と英語で送られてきたので、以下に中国語版の翻訳を全文掲載することにする(英語版も意味はほぼ同じだがニュアンスが若干異なる部分がある。本記事の末尾に掲載するので、気になる方は確認してほしい)。