今回は、このホヤの秘密を探るべく、産業技術総合研究所(産総研)のバイオメディカル研究部門 脳機能調節因子研究グループの主任研究員、大塚幸雄さんを訪ねた。大塚さんは、学生時代を含めると30年近くホヤ一筋に研究を続けている、ホヤ研究のスペシャリストだ。
じつはホヤは泳ぎます
自ら作成したスライドを用意して、我々探検隊をにこやかに迎え入れてくれた大塚さん。その大塚さんに、いきなり疑問をぶつけてみた。ホヤが動物って、本当ですか?
「はい、本当です。お店で売られているホヤを見ると、根っこみたいなものがあるし、『ホヤ貝』と表記されていることもあるので、『植物なんだか、動物なんだかよくわからない』というのが、一般的なイメージだと思いますが、ホヤはれっきとした動物です。小さいうちは泳ぐこともできますよ」
えっ、ホヤが泳ぐ!
「ホヤの幼生はオタマジャクシのような形をしていて、海の中を泳いでいます。幼生は脊椎動物の特徴である脊椎は持っていませんが、脊椎のもとになる脊索(せきさく)という構造を持っています。この脊索を持つことがホヤの第一の特徴です。
信じられないかもしれませんが、ホヤは無脊椎動物のなかではもっとも進化している生物の一つであり、我々脊椎動物と非常に近い関係にある、かなり高等な動物なのです」
大塚さんによれば、世界の海には3000種類以上のホヤが生息しているという。そのなかで、日本でよく食べられているのはマボヤだ。
マボヤは単体で岩場などに付着しているが、オタマボヤやサルパなど、海中を浮遊しているホヤもいれば、通称「ウルトラマンボヤ」と呼ばれるホヤのように密集して付着しているホヤもいるそうだ。パンダの骸骨のように見え、ネットでもちょっと話題になった通称「ガイコツパンダホヤ」もホヤの仲間だ。
このように親になるとバラエティに富んだ姿に変態するホヤだが、幼生期はどれもオタマジャクシのような形をしていて、大きな違いはないという。そして、これらのホヤの仲間に共通しているのが、幼生期に脊索を有することだ。この脊索を持つ動物を原索動物と呼び、約5億年前に脊椎動物から分岐したと考えられている。意外にも、ヒトに非常に近い動物なのだ。
ただし、ホヤに脊索があるのは幼生のときだけで、成体になるとなくなってしまうという。幼生が岩場などに付着して変態し、ほとんど動かない状態になったのが、我々が鮮魚店などで目にする親のホヤだ。
「ホヤのもう一つの特徴は、この成体が持っている被嚢(ひのう)です。ホヤは、動物のなかで唯一、植物繊維のセルロースを作ることができ、これを被嚢と呼んでいます。ホヤの外側の殻のような部分ですね。ですから、ホヤは別名「被嚢類」とも呼ばれています。
セルロースには植物型と微生物型の2種類ありますが、ホヤの場合は微生物型。ホヤと共生していた菌から遺伝子を取り込み、セルロースを作れるようになったのです。じつは、このホヤのセルロースは高級スピーカーの材料として使われています」
脊索を持っていることとセルロースの被嚢を作れること。この二つがホヤの特徴であることはわかった。普段何気なく口にしてきたホヤだが、じつはなかなかスゴい生き物なわけだ。