ファインマン理論をどう理解するか
リチャード・ファインマンの物理学における業績を2つ、ご紹介したい。といっても、原論文にまでさかのぼって勉強できてしまう、いっぱしの物理学徒には、サイエンス作家による解説など不要ですよね。
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ということで、竹内薫が物理学科の学生だったときに、個人的にファインマンさんの理論をどうやって噛み砕いて理解したか、という視点から説明してみましょう。
「経路積分」ってなんだ?
経路積分は、ファインマンさんの業績ナンバーワンだと個人的に考えていますが、本によっては「経路和」と書いてあります。和と積分は、無限小であるか否かの差だけで、「足す」という意味では同じなので、あまり気にしないことにします。
経路積分の意味を簡単にまとめると、こんなふうになります。
粒子が時空のどこかで経路x(t)に見つかる確率は、それぞれの経路からの重みを足して2乗したものになる。ひとつの経路からの重みは、指数関数の格好をしており、(虚数の)位相は問題の経路の古典的な作用(単位はℏ)である。過去から(x,t)に到達するあらゆる経路の重みの和は波動関数Ψ(x,t)である。このΨはシュレディンガー方程式を満たす。
ファインマン先生の原論文から、竹内が翻訳しました(『「ファインマン物理学」を読む 量子力学と相対性理論を中心として 普及版』213ページ)。
ちょっと難しいでしょうか?
量子は「腕時計」をはめている!?
ここに出てくる「重み」というのは、秒針のついた腕時計のことだと思ってください。素粒子に代表される「量子」には、不確定性やトンネル効果など、いろいろと不思議な性質があるのですが、私は学生のころ、量子を擬人化して、腕時計をはめているのだとイメージしました。
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たとえば、懐中電灯から出た光子(光も立派な量子です)が鏡で反射して人間の目やデジカメのセンサーに届く確率を計算したいとしましょう。この例は、ファインマンさんの一般向けの解説本(『光と物質のふしぎな理論』釜江常好・大貫昌子訳、岩波書店)に出ている事例で、拙著でも引用させていただきました。
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光電子増倍管というのは、光を電子、すなわち電流に変換する装置ですが、要はデジカメのセンサーと思ってください。
学校の光学では、鏡への入射角と反射角が同じになるような、たった1つの経路しかないと教わります。でも、量子力学の見地からは、あらゆる経路からの重みを足してみると、あーら不思議、学校で教わる光学の法則が「再現」されるのです。