際限のない問いかけ
一般社会向けの講演会で宇宙論の話をすると、必ず出てくる質問がある。
まずは何と言っても「宇宙人はいますか?」である。頑張ってビッグバン宇宙論の話をした後で、出てきた最初の質問がこれだった時の脱力感には未だに慣れることができない。
その次に多いのがまさに「宇宙の果てはどうなっているか?」「ビッグバンで宇宙が始まる前は何があったのか?」といったものである。
筆者もまた、高校生の頃のある眠れない夜、宇宙というものについてあれこれ考えているうちに恐ろしくなったことがある。
この宇宙、すなわち我々が認識する物質とそれが埋め込まれている時空がかつてビッグバンという大爆発で誕生したのならば、その「宇宙」が始まる前は何があったのか。
時空や物質を生み出すさらに高い階層の世界があるべきではないか。それを宇宙と呼ぶのであれば、ビッグバンで誕生した「宇宙」というのは宇宙の一部でしかない。
今後もし、さらに科学が発展すれば、時空と物質という狭い意味での宇宙を生み出す、より大きな基礎法則や世界が明らかになる可能性はある。しかし、今度はその法則を生み出す源は何なのか、という疑問に必ず突き当たるはずである。
結局のところ際限がない。
となると、どこまで科学が進歩したとしても、我々はなぜ存在するのか、我々は一体何者なのか、という根源的な疑問には永遠に答えは出ないことになる。
ここまで考えて、なんとも言いようのない恐怖を感じたものである。
時間を過去に遡る
現代の物理学では、我々の世界は1次元の時間と3次元の空間を合わせた4次元空間である「時空」と、その中に存在する物質によって記述される。
この考えに基づけば、「宇宙の果て」とは空間だけでなく時間方向も考えて、「遠方・過去・未来」の3方向に向かって宇宙はどこまで広がるのか、という問題になるだろう。
過去にさかのぼる方向の「果て」について、現時点で科学者が確実な自信を持って言えるのは、この時空と物質としての宇宙が、今から約138億年前にビッグバンで始まったということだけである。
そのため講演会で宇宙の果てについて質問されても、「ハテ、ありますかね」としょうもない回答をして会場を寒くさせてしまったりするわけだ。