「盗聴」と「尾行」から逃げ回る毎日…日本人駐在員10万人が恐怖する、中国「反スパイ法」の危険な実態

反スパイ法が施行されてから

日本のビジネスマンに衝撃を与えた、アステラス製薬社員のスパイ容疑での拘束から1年が過ぎた。中国検察は起訴に向けた審査に入ったという。悪評高い「改正反スパイ法」が施行されて7月でやはり1年を迎える。

この間に、二人の大学教授が失踪し、そして施行されたばかりの「香港安全条例」で男女6名が拘束され「国家安全維持法」でも14人が有罪判決を受けた。習近平体制の異様な情報統制や監視社会がより一層、加速し始めている。

中国社会はいま、歴史的大混乱の予兆を示しているといえる。そのきっかけが「ゼロコロナ」政策失敗による急速な経済環境の悪化だ。そして雪崩現象のような不動産バブルの崩壊。米中対立による国際競争力の低下とデリスキング。

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中国への潜在成長率への期待は崩れ、昨年度の中国への直接投資額は前年比約82%減の330億ドルにまで落ち込んだ。消費市場としての「人口ボーナス」の魅力も少子高齢化を示す「人口減少」でもうはや、中国への投資を惹きつける力は消え失せつつある。

そして、この急激な経済地盤沈下に、さらにとどめを刺すのが、「改正反スパイ法」や「香港安全条例」だ。「国家安全保障」を名目に「外商投資法」などさまざまな活動規制や監視・報告義務を課しだした習近平は、自ら「新たなチャイナリスク」を創出し、世界に喧伝しだしたのだ。

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しかし、いまなお海外進出企業の3分の1ほどの約8万社が中国に進出、10万人強の日本人駐在員がビジネスを展開している。彼らは経済環境の悪化や高まる安全関連法の規制のリスク下でも、安易にビジネスを中断する訳にはいかない。

事実、JETROによると、中国からの撤退や第三国への移転を検討している日本企業はまだ10%ほどで、アメリカの23%と比べても半分以下だ。

中国市場からの撤退は進出より何倍もの時間とエネルギーを要する。新規投資は激減しているが、大多数の日本企業は日々高まるチャイナリスクの嵐の中で、現状を維持すべく奮闘している、いやせざるを得ないのが現状なのだ。「改正反スパイ法」の存在は、そういう環境の日本企業の駐在員、そして彼らの家族、友人を含め何十万人もの日本人をいまなお危険に晒している。