熱と物質の「相」変化
たとえば、1980年代当初は、ある種の素粒子物理学の過冷却現象における潜熱(せんねつ)の解放が、宇宙のインフレーションの原因だと考えられました。
固体、液体、気体などの物質の状態のことを「相(そう)」といいます。潜熱とは、物質の相が変化する際に、やり取りされる熱エネルギーのことです。盆地で蒸し暑い京都では、夏の暑い日に打ち水をする風習があります。打ち水によって、周囲の温度が少し下がり涼がもたらされます。
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打ち水では、水(液体)の一部は水蒸気(気体)に変わります。液体である水を気体である水蒸気に変化させるには、その分だけエネルギーが必要です。水を入れたやかんをコンロにかけると、沸騰して水蒸気が発生します。このとき、コンロから熱エネルギーを供給していますよね。つまり、撒(ま)いた水(液体)の一部が水蒸気(気体)に変わる際に熱エネルギーが必要となり、そのエネルギーを周りから奪い取っているのです。
熱エネルギーを奪い取る場合は、「吸熱」とよばれます。周囲から熱エネルギーを奪ったため、その周りの空気の温度が少しばかり下がります。
「発熱」が宇宙の急膨張のエネルギー源か?
水蒸気(気体)を水(液体)に変えるにも、熱エネルギーが必要です。これは先ほどの逆反応なので、熱エネルギーを周りに放出します。よって「発熱」とよびます。
この種の発熱が、宇宙のインフレーションとよばれる急激な膨張の源かもしれません。もちろん、水の発熱ではなく、高エネルギー物理学における何らかの素粒子反応における発熱です。
さきほどの小林・益川理論は実験で正しさが証明されていますが、その実験よりも高いエネルギースケールでの素粒子理論には、今のところ実験的裏付けがありません。
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そのため、宇宙のインフレーションが提唱されてから約40年経(た)った現在でも、どの素粒子理論模型における潜熱なのかわからず、インフレーションの理論模型は百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の状態が続いています。