地震波には「縦波」と「横波」がありますが、重力波はどちらでしょうか?じつは、これが重力波観測の重要なカギなんです
時空の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。
この記事では観測された謎の重力波「ナノヘルツ重力波」の正体に迫るため、現代の物理学でも最大の謎の一つとされている「重力」について考察していきます。ここで問題です。地震波には「縦波」と「横波」がありますが、重力波はどちらでしょうか? じつは、これが重力波観測の重要なカギなのです。
*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
時空の歪み「重力波」を「地震波」と比較すると
まずは「重力波の特性」から紹介します。
これまでの記事で紹介したように重力波は時空の歪みが振動し、その振動が伝わる現象です。
日本における生活では、地震はつねに懸念される災害のひとつです。地震は文字どおり地面の振動で、その振動の伝搬は「地震波」とよばれます。地震波の振動には2種類あることが知られています。
震源で発生した振動が、まず最初に観測点に到達するものが「P波」です。これは、途中の物質を押し縮めることと伸び広げることを繰り返す波動現象で、地震波の進行方向(縦方向)に疎密が発生するため「縦波」です。
一方、少し遅れて届くのが「S波」です。この波は、途中の物質のねじれを引き起こし、進行方向に対して垂直方向(横方向)の変位を生じます。よって、S波は「横波」です。
では、重力波はどのタイプの波動現象でしょうか。
一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式を調べると、静止している物体に対して重力波が通り過ぎるとき、重力波の進行方向に対して垂直方向に物体が移動することが知られています。
したがって重力波は横波です。ただし、一般相対性理論とは異なる重力理論のなかには、縦波成分の重力波を予言するものもあります。ここでは、簡単のため一般相対性理論にそって、横波である重力波を主に議論します。
横波が通り過ぎると何が起こるのか?
横波が通り過ぎると何が起こるのでしょうか。
まず注意してほしいことは、観測者が単独の場合は重力波に気付けないことです。以前の記事で紹介した「等価原理」を思い出してください。時空が曲がっていても、その1点では重力のない特殊相対性理論が成立する、つまり、重力があらわれないからです。
◆ 重力波を観測する方法
まず、平行なはずの道路を考えましょう。その道路上に立っている2人の観測者を考えます。
横波が2人の間を通過する際、観測者の間の距離が変動します。ここで観測者が2人いることによって、単独の観測者では不可能だった作業が可能となります。その作業とは、観測者の間の距離を測量することです。具体的に物差しをあてて測ってもかまわないですが、ここでは光を用いて測量してみましょう。
片方の観測者から光を放って、それをもう一方の観測者に反射してもらい、その反射光を観測し、光の往復時間を測定するのです。その往復時間に光の速度を掛けたものが、光が往復した距離です。さらに、その半分が、その2人の観測者の間の距離と考えて差し支えありません。
時空の曲がり具合が時間的に変化しない場合、その観測者間の距離は変動しません。しかし、重力波が通り過ぎれば、その距離が変動するはずです。もちろん、重力波の進行方向と2人の観測者の相対的な位置が平行な場合、縦波でなければ、その距離は変動しません。
一般相対性理論における重力波は横波ですから、観測者の相対的な位置が重力波の進行方向と垂直な場合、2人の間の距離の変化量が最大になりそうです。厳密には、重力波には、プラスモードとクロスモードの2種類の偏波が存在し、進行方向の垂直面内での相対位置に応じて、変位の大きさは違ってきます。本書では、この偏波の詳細には深く立ち入らずに、定性的な議論をこのまま進めたいと思います。