登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。
運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。
今回からは、登山と栄養の関係についての解説をご紹介していきます。
*本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
水分の不足が起こすトラブル
水分や炭水化物の補給が足りないと起こるトラブルには、どのようなものがあるでしょうか。図「水分や炭水化物が欠乏したときに起こるトラブル」にまとめました。
水分のほうから見ていくと、いちばん上に書いた、体温が上昇して熱中症にかかりやすくなることについては、知っている人が多いと思います。しかしそれだけではありません。
水分の補給が不足して起こるトラブル
- 体温が上がり、熱中症にかかりやすくなる
- 心拍数が上がり、心臓に負担をかける
- 血液の粘性が増し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める
- 持久力や筋力が低下し、疲労しやすくなる
- 脳や神経系の働きが低下し、認知能力が低下する
- 脱水の反動で水分を貯蓄するホルモンが分泌され、むくみの原因になる
たとえば「心拍数が上がる」については、次のような仕組みで起こります。脱水が進むと血液量も減り、1回の心臓の収縮で活動筋(脚など)に送ることのできる血液が少なくなってしまいます。そこで心拍数を増やして、必要な血液量を送ろうとするのです。
また、脱水は血液の粘性を高めることにもつながることから、心臓に問題のある人では心臓疾患が起こりやすくなります。
ほかにも筋力や持久力が低下したり、脳神経系の機能も落ちてしまいます。脱水の反動により、むくみも起こりやすくなります。
人間の身体のうちの約6割は水分です。そして、生命維持のための化学反応はすべて、体液と呼ばれる液体の中で行われています。水分が欠乏すると、これらの生命活動全体に支障が出てくるのです。